傘の下

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昔、人は自分の足くらいの長さの傘を雨の日に持ち歩いていたらしい。 それが邪魔になると自分の腕くらいの長さの傘を作り鞄にいれて持ち歩いたらしい。 その……折り畳み傘というやつも鞄の中でかなりの質量と空間を要するということで、人間はもっと軽くてもっと小さい傘を研究した、らしい。 雨は植物や生き物に水を与えるために必要だった、と小学校の時に勉強した。 海からの水が蒸発して雲になり、雨になり、地上に降って循環しているのだと。 それを聞いたとき僕は単純に美しいと思った。 循環という響きが美しいと思った。 しかし、雨により多くの人の命を奪う災害が多発して、人間たちはこれではいけないと考えた。 雨による被害をなくしたい。 水を自分達の手で循環させよう、そう考えた昔の人は田畑の水を完全に管理し、森の水も機械で流した。生きるために必要な水はすべて管理した。 こうすることで僕たちは、雨の災害をなくすことができたのだ。 僕たちは今、大きな傘の下で暮らしている。 上を見上げれば「空」というものが描かれている布。 その布の上では「雨」が降り、その水はこの大きな傘の端に集まり、人間は水を得ることができる。 僕たちは傘を手放して、傘の中で生きることを選んだ。 僕は今、幸せだ。いつも晴れている空の下で暮らすことができる。 写真で見たいろいろな形の雲や虹、空の色。確かにあれは美しい。それでも、守られている傘の下の生活の方がいいな、と思う。 ある日、大きな傘の一部が破れ、大量の水が流れ混んでくるまでは。 僕たちは今、大きな傘の下で暮らしている。 目の前に広がるのは濁流に飲み込まれた街。街。街。 写真でしかみたことのない災害が目の前に広がっていて、 僕はそれを美しいと思った。 美しいと思えたんだ。
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