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最終話 覆面プロレス祭り
朱理先輩は白田さんをあきらめた。
「わかったわよ。今までも顔で選んで失敗してきたんだったわ」
「まぁ、お顔は大事ですけどねぇ。毎日見るわけですしぃ」
「でしょでしょ。子供の顔も親に似るだろうし、好きな顔の方がいいと思うの」
「でも顔は良くても性格悪かったり、話合わなかったり、働かなかったりしたら困ります」と私。
「そうねえ。難しいわよね。婚活で大金かけて相手を選んでも絶対に幸せになれるわけじゃないし」
「朱理先ぱぁいは、もぅ婚活しないんですかぁ?」
「続けるわよ。婚活の女王目指してがんばるわ。私、会社立ち上げたいのよね。婚活の会社とか、婚活してる人向けに自分磨きを手伝う会社とか」
「向いてそうですね」
「でしょでしょ! 婚活相談に来た男性と結婚しちゃおうかしら」
「えぇー。それ有りなんですかぁ?」
「ずるいですよ!」
「なんでよ。お互い結婚相手を探してるんだからいいじゃない。フフフ、楽しみだわ」
朱理先輩はビジネスを始めるそうだ。
「ま、とりあえず二人はカップリングしたお相手と仲良くなれるようにね。今日はきっかけができただけだから」
「はい。次会うの緊張します」
「私もですぅ」
「フフフ、うまくいくといいわね」
紫藤さんと覆面プロレス祭りに参加する日がやってきた。会場は隣町の総合体育館だ。
「ついにこの日が来てしまった。もう覆面かぶっちゃお」
今日は会場の近くのコンビニで待ち合わせした。コンビニの前で覆面かぶる女。うーん、あやしすぎる。
「藍さんですよね?」
「ハッ、紫藤さん!」
「あはは。もう覆面かぶってるんですか。準備いいですね」
「あ、はい。待ちきれなくて」
はああ、紫藤さんは今日もイケメンだ。緊張する。ずっと見てれば慣れるかな。実はシワが多いとか、白髪多いとか、鼻毛出てるとか何かイケメンが崩れることないかな。
「じゃあ、僕もかぶりますね」
そう言って紫藤さんは、婚活パーティーの時とそっくりな覆面をかぶった。
「おお、やっぱり紫の覆面似合いますね!」
「ホントですか? 覆面屋に行ったらこの前かぶったのと似てるのあって買っちゃいました。藍さんの覆面もいいですね」
「あっ、これは私の好きな選手のレプリカマスクなんです。奮発してゲットしました!」
「よく似合いますよ」
「あはっ、ありがとうございます」
「じゃあ会場に入りましょう」
覆面プロレス祭りが終わった。楽しかった。
紫藤さんが感激を語る。
「最後の試合ハラハラしましたね。選手の覆面が取れちゃうかと思いました」
「危なかったですねー。覆面レスラーの素顔はすごく気になりますが、見ちゃうと夢が壊れます」
「ですよね。はあ、危なかったなあ」
「今日、私のかぶってる覆面のレスラーが場外乱闘の時に近くに来てくれたんですよ! この覆面かぶってたからですよ、きっと!」
「ああ、来てましたね! 良い思い出ができましたね」
パッと紫藤さんが覆面を外した。髪型が崩れてしまっている。ニコッと笑った目尻のシワが深い。目が大きくて表情豊かだからシワになりやすいんだろう。少し老けて見える。やっとイケメンに隙が見えた。
「あのう、藍さん。僕とお付き合いしてもらえませんか?」
「えっ、あっはい」
こんなにかっこよくて、ノリがよくてグイグイ来る人、大丈夫なんだろうか。婚活サギとか体目的ではないだろうか。でもそれは付き合ってみないと分からないよね。
「よろしくお願いします」
私も覆面をとった。
「やっぱり、素顔だと緊張しますね」
紫藤さんが下を向いた。
「あっ、覆面かぶってた方がいいですか?」
「えっと。僕、覆面かぶってた方が自分を出せるみたいで。婚活パーティーの時はコンタクトもしてなくて視界がぼやけてたから話せたんです」
「今日はコンタクトして私の顔見てどうでしたか?」
「えっと……」チラッと一瞬、紫藤さんが私を見てからまた視線を下に落とす。
「……かわいいです。」
「えっ……、ありがとうございます……」
どうしよう。二人してモジモジしてる。紫藤さんもシャイだったのか。
「あのう、紫藤さん」
「はい」
「また、覆面したままデートしませんか?」
「あっ、そうですね。慣れるまでお願いします」
いえ、できれば、これからも。
キスをする時も、抱き合う時も、結婚式を上げる時も。子供が生まれて、授業参観に行く時も。
ずっと覆面したまま過ごしましょう。
おしまい
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