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十、巨体の緑川さん
緑の覆面の男性が話しかけてきた。ラグビー選手のようにガッシリとした体つきだ。
白の覆面・白田さんの何倍の大きさだろう。縦にも横にも大きい。
その迫力に、白の覆面・白田さんが震えだした。
「じゃ、じゃじゃ、じゃじゃじゃあーっ僕は、しししししっ失礼しますーっ」
と言ってトコトコトコーッと早歩きで朱理先輩の方へ逃げて行った。
白田さんは両手をグーにして、両腕を体にピタッとくっつけてブルブル震えながら、朱理先輩に話しかけていた。
白田さん、かわいいな。応援したくなっちゃうな。モジモジしながらだけど、一生懸命なところがいいな。
でもずっと下を向いているのがなあ。残念なところなんだよなあ。
「話していたのに悪いね」
緑の覆面の人が話しかけてきた。
「いえ、大丈夫ですよ」
「抹茶のフィナンシェは好きかい?」
「あっ、はい。抹茶もフィナンシェも大好きです」
「それはよかった。他にも抹茶味のスウィーツがたくさんあるから、取ってあげよう」
と言って、抹茶味のプリンや水まんじゅうを新しいお皿にヒョイヒョイッと乗せてくれた。大きい体で素早い動き、すごいなあ。テキパキしてる。
「ありがとうございます。和菓子もあるんですね」
「ああ、水まんじゅう美味しかったよ。僕は何でもやってあげたくなっちゃうタイプなんだ。鍋や焼き肉でも自分が全部仕切りたいんだ」
「そうなんですかあ。頼りになりますね」
「そうかい?」
「はい、婚活だからいいところ見せようとして取ってくれたわけじゃないんですね。安心しました」
「ハッハッハ、それだと仲良くなってやらなくなった時にガッカリするだろう。後でやらなくなるなら、最初からしないほうがいいさ」
「ふふふ、そうですね。あのう、お名前は? 私は田中藍です」
「あいさんか、かわいい名前だね。僕は緑川です」
「みどりかわさんですか。五文字の名字って珍しいですね。」
「そうかい?」
「あと、たくましい感じがしますけど何かスポーツやってらっしゃるんですか?」
「今はジムで鍛えてるだけだけど、昔は相撲をやっていたよ」
「相撲!? お相撲さんなんですか?」
「ハッハッハ、学生の時だけだけどね。」
「すごいですね! 相撲やってた人に初めてお会いしました!」
うちの両親やお婆ちゃんが喜びそう。緑川さんはお父さんぽい、あったかい感じがするなあ。
あ、でもうちのお父さんはこんなに大きい体してないから、近所のお父さんみたいな雰囲気かな。安心感があるぞ。
緑川さんかあ、この人と結婚したら私は緑川藍になるのかあ。うん、きれいな名前。
でも紫色の覆面の紫藤さんの名字も素敵だったな。紫藤さんと結婚したら紫藤藍。かっこいい名前になる!
蒼さんと水樹さんの名字はなんだっけ?
んーと、あと誰かいたっけ……。
ぴんぽんぱんぽーん♪
「はーい、みなさーん。フリータイム終了でーす。これから15分間休憩でーす。その後は一人ひとりと話す時間がありまーす」婚活パーティーの司会者がお知らせをした。
「えっ、もう終わり?」
早いなあ。ケーキもっと食べたかったなあ。
「フフッ。また後でね、あいさん」
緑川さんが去って行った。
「あっ、はい」
私は大急ぎでお皿の上のスウィーツを食べて、トイレに向かった。
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