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十一、トイレ休憩と人間回転寿司
トイレに向かった。さっき食べた抹茶のフィナンシェに口の中の水分をもってかれて、喉が苦しい。持参していたペットボトルの水をゴックンと飲み込んだ。
ふうー、初対面の男性達と話したからちょっと疲れちゃったな。
さっき話した緑の覆面の緑川さんはどうなんだろう。世話好きみたいだけど、結婚したらお節介にならないかな? 口うるさくならないだろうか。
あっ、女子トイレがあった。並ぼう。ピンクの覆面の人がいる。いいなあ、ピンクの覆面かわいいなあ。
ピンク色の名前は、なんだろう? 聞いてみたいけど、急に話しかけたら驚かれちゃうよね。やめておこう。
「ねえ、さくら。いい人いた?」とピンクの覆面の人に、紫の覆面の女性が話しかけた。
「まだ分かんないよー。すみれはどうなの?」
お友達同士のようだ。さくらさんとすみれさんかあ。どちらもお花の名前だ。さくら色とすみれ色ってことだね。きれいな名前だな。
朱理先輩と由黄ちゃんはどこにいるんだろう。トイレを済ませて会場に戻った。
「藍ちゃ〜ん」
「藍さぁん、こっちですよぉ」
朱理先輩と由黄ちゃんが手を振って呼んでくれた。
「藍ちゃん、さっきの紫の覆面の人どうだった?」
「それが少ししか話せなかったんですよね。でも話は盛り上がりました。プロレスの割引券もくれました」
「あらっいいわね〜」
「そうですねー。でも他にも気になる人が何人かいたんです」
「気になる人が何人もいるっていいことよ。誰にも興味持てないよりずっといいわ。3人に絞ればいいのよ」
3人か……。
紫の覆面・紫藤さん
青の覆面・蒼さん
水色の覆面・水樹さん
の順で気になったんだけど、一度会っただけで判断するのって難しいな。
「朱理先輩はどうでしたか?」
「それがねえ、誰が誰だか分からなくなっちゃったのよねえ」
「うふふ。すごい勢いでいろんな人のところに行ってましたけど、全員と話せたんじゃないですかぁ?」
「全員じゃないけど、結構たくさんの人と話せたわよ」
「すごいです。さすがです」
「でもね、自分でメモした紙を見たら汚くて読めないの〜。急いで書いちゃったから」
「フィーリングゥが合いそうな人は、いなかったんですかぁ?」
「そうねえ。金の覆面の人と、白の覆面の人がお金持ちだったということしか覚えてないのよ。フィーリングゥがどうとか分からなかったわ」
へえ、金の覆面の人、お金持ちなんだ。朱理先輩は年収も聞いてそうだな。
私は相手の年収聞いても分からないよ。どれぐらいが普通なんだろう。あと、あんまりお金持ちだと金銭感覚が合わなさそう。
「朱理先輩はお金持ちが好きなんですね」
「そうね!」
「由黄ちゃんは、オレンジの覆面・橙矢さん狙いなの?」私は思い切って聞いてみた。
「そぉですねぇ。話していて気楽だったんですよぉ。それにぃ私の胸ポケットに入れていたボールペンがぁ、おっぱいの形に変形しちゃってぇ、書きづらくなっちゃったんですぅ。もぉ他の人をメモするのはあきらめましたぁ。橙矢さんにしますぅ」
由黄ちゃんのボールペンが、まぁるく曲がってしまっているぅ。おっぱい大きいって大変だな。
「橙矢さんは、筋肉も素敵ですしぃぃ。私の覆面、タヌキみたいじゃないかって聞いたらぁ、タヌキみたいですごく可愛い、今度一緒にたぬきうどんを食べに行こうよと誘われちゃいましたぁ」
由黄ちゃんがのろけまくっている。
「よかったわねえ。じゃあ、オレンジの覆面の人は選ばないでおくわ」
「よろしくお願いしますぅ。橙矢さんは名字が田中なんですぅ。私も田中なので、結婚しても名字が変わらなくていいと思うんですぅ。田中は書くのも楽ですしぃ」
「いいわね。結婚した時に名字変更の手続きしなくていいじゃない。あれって大変らしいわよ」
由黄ちゃんの名字は田中。田中由黄。
私の名字も、田中である。田中 藍。
朱理先輩の名字も田中だ。田中朱理。
うちの会社は田中さんが多いので、下の名前で呼び合っている。
結婚した時に名字の変更手続きをしなくていいのは楽そう。だけど私は結婚する時に旦那さんの名字に変えるの憧れなんだ。
でも田中ってホントに書くの楽なんだよね。急いでる時は○と+、○と|で田中が書けちゃう。
あっ、紫の覆面・紫藤さんと結婚したら、名字書くの大変だ……。藍も書くの大変なのに……。
ええと、男性の番号は紫藤さんは12。蒼さんは1。水樹さんの番号を忘れずにメモしておかなきゃ。
ぴんぽんぱんぽーん♪
婚活パーティーの司会者がマイクを持ってお知らせする。
「みなさーん。準備ができましたー。まず、女性の方々だけ、自分の番号の書かれた紙が貼ってある椅子に座ってくださーい」
会場の左側から椅子が2個ずつ向かい合って並べてある。そして背もたれに紙が番号順に貼ってある。
病院の診察室にあるような、パーテーション(仕切り)で隣りのペアの椅子とは区切られてある。周りを気にせずに相手と話せそうだ。
会場の左手前の方の椅子は1番だった。私は13番だから右奥の方だ。席を見つけて座った。女性は奥の壁側に座っている。
「続いて男性方も自分の番号のところに座ってくださーい」
私の正面に金の覆面の人が座った。さっきのフリータイムで一番最初に話した男の人だ。えーっと、なんて名前だっけ?参加費とかお金の話をしてたなあ。
「では、みなさーん。3分間、向かい側に座った相手と話をしてくださーい。3分経ったら、こちらから合図をしまーす。そしたら、男性は右隣りの席に移動してくださーい。
1番の席の男性は2番の席に移ります。
15番の席の男性はちょっと大変ですが、左端の1番の席まで移動してくださーい。
これを15人分くりかえしまーす。
後で気に入った人の番号を、
第1希望から第3希望まで3人分書くので、
好きな相手の番号をメモして覚えておいてくださいねー」
おお、婚活パーティー名物・人間回転寿司の始まりだ。男性が回転寿司のように、流れていく。
「それでは、始めまーす。スタート!」
「やあ、さっきも話したねえ。金田です。覆面婚活パーティー、楽しんでるかい?」
あっ、そうだそうだ、この人は金田さんだ。
「はい。金田さんも私と同じ13番だったんですね」
「そうなんだよお。そういえば、君は名前は何て言うんだい?」
「田中です」金田さんには、フルネーム言わなくていいや。
「そうなんだあ、今日は田中さんが多いなあ」
朱理先輩も田中だし、由黄ちゃんも田中だもんね。
「いやあ、このパーテーションって言うんだっけえ? いくらするんだろうねえ。5000円くらいかなあ? 椅子は1000円くらいかなあ。1000円の椅子が30個、間に仕切られたパーテーションが14個だからあ」
またお金の話だ。気になるのは分かるけど、今その話するの? お互いの話しないの? 私も金田さんに興味ないけど、金田さんも私に興味ないんだなあ。
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