十四、紫藤さんの素顔

1/1
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

十四、紫藤さんの素顔

  「私は疲れたから駅前のカフェで休んでるわ。二人共、この後カップリングの相手と食事に行くといいわよ」と朱理先輩がアドバイスをくれた。 「はぁい」 「はい、ありがとうございます」 「今度どんな顔だったか教えてね」  そう、これから相手の素顔を見るんだ。  緊張する。紫藤(しとう)さん、変な顔だったらどうしょう。私、きっと顔に出ちゃう。  逆に向こうが私の顔を見てガッカリするかも。覆面に隠れてる分、想像は美化されてるかも。ガッカリするのも、されるのも嫌だ。せっかくカップリングしたのに。  会場に入り係員に覆面を返した。 「女性の13番の方ですね。男性の12番の方はこちらです」と案内してくれた。  覆面を外した男性が3人、こちらに背を向けて椅子に座って待機している。椅子には番号がふってある。間隔は2メートルくらいずつ離れている。  左に座ってるブルーのスーツは蒼さんかな。顔面は分からないけど、後ろ姿はイケメンだな。姿勢がいい。さくらさんとカップリングしたんだな。  真ん中はゴリマッチョの橙矢(とうや)さん。後ろ姿もムッキムキだ。  右に座ってる、1番座高の高い人が紫藤さんだな。12番の札が椅子に貼ってある。そこに案内された。  由黄ちゃんも、さくらさんもそれぞれお相手のところへ案内された。由黄ちゃんはスキップしそうなくらいルンルンしてる。  さくらさんは、あんまり嬉しくなさそう。もしかして、蒼さんは第1希望じゃなかったとか? もちろんこれも私の勝手な想像。  係員が紫藤さんに 「カップリングのお相手が来られました」  と笑顔で伝える。  紫藤さんが立ち上がって振り返った。 「あ、藍さん」 「どうも……」  紫藤さんは綺麗な名字に劣らない美青年だった。隠れていた鼻も肌も綺麗だった。  紫藤さんが頭をかきながら 「えーっと、選んでくれてありがとうございます。」と言ってくれた。 「こ……こちらこそ。ありがとうございます。紫藤さん、覆面外してもかっこいいですね。」  こんな目が大きくてまつ毛バッサバサの顔の濃いイケメン、普段話す機会ないよ。どうしよう、覆面無しで目を合わすのキツイ。 「ありがとうございます。」さすがイケメン。かっこいいを否定しない。 「藍さんも、きれいです。」 「えええ? そんなことないですよ!   あっ、でもお世辞でも嬉しいです!」  私は紫藤さんの顔をチラッと見て、視線を合わせることに耐えきれず、また下を向く。紫藤さん、目ヂカラ強い。ガン見してくる。 「いや、お世辞じゃなくて。こんなに綺麗な人と話してたなんて……、緊張してきちゃいました」 「またまたあ! お上手ですね!」  再び、チラッと紫藤さんを見るがまた視線を外してしまう臆病な私。ああ、覆面かぶりたい。覆面かぶれば話せるのに。 「いや、ホントに。さっきと違う」 「そ、そんなに私の覆面姿、ブサイクでした?」 「あっ、そういう意味じゃなくて! あのう、連絡先交換しませんか?」 「はっはい」  チャットアプリのQRコードの出し方をど忘れしてワタワタしたので、IDを紙に書いて交換した。 「藍さんはこの後あいてますか? よかったらお茶しませんか?」 「そ、そそそれが、今日は友達と用事があるんです。す、すすすみませんっ」  こーんなイケメンと二人っきりなんて! 目を合わせられないのに、お茶なんて無理! 今日はこのまま帰らせてください。用事があるなんて、ウソです。ごめんなさい。 「そうですかあ……」  ああっ、紫藤さんガッカリしてるよね。   「すみません! 私、緊張しちゃって下ばっかり見て! 紫藤さんが想像以上にかっこよかったので!」 「ああ、あんまりこっち見てくれないなって思ってました」 「すみません、緊張してるだけなんです! メッセージ必ず送ります!」 「はい。よろしくお願いします」  紫藤さんと一緒に会場を出た。 「藍さん、来週の『覆面プロレス祭り』は一緒に行けそうですか? 今日みたいに覆面かぶって観戦できるんですよ」 「えっ、覆面かぶれるんですか?」 「はい、覆面は自分で用意するんですけどね。覆面で参加すると割引券の金額より、さらに割引になります」  覆面かぶってデートできるんだ!   そしたら紫藤さんの目を見て話せる! 「行きたいです! 絶対に行きたいです! 一緒に観に行きましょう!」 「じゃあ細かい待ち合わせはまた後で」 「はいっ! 必ず連絡します!」  念の為、その場で紫藤さんのスマホにスタンプを送って、ちゃんとメッセージ交換できるか確認した。  私の送った覆面レスラーのキャラクターのスタンプが瞬時に紫藤さんのスマホに届いた。ちゃんと好意があるんですよという意味を込めてハートの絵柄のスタンプにした。 「あっ、届きました。かわいいですね、このスタンプ」と紫藤さん。 「はい、覆面レスラーのスタンプかわいいのいっぱいあっておもしろいですよ」 「じゃあ、またかわいいスタンプいっぱい送ってくださいね」 「あっ、はい。送ります。よかった、このスタンプ送れる相手いなくて困ってたんです。覆面レスラーのスタンプ、かわいいって言ってくれる人あんまりいなくて」 「確かに送る相手を選びますね。僕にどんどん送ってください」 「はいっ。ありがとうございますっ」 「じゃあ、今日はこの辺で」  …………やっと紫藤さんと解散した。  つ、つ、疲れたよ。イケメンと話すの疲れたよ。でもただのイケメンじゃない。自分に好意を持ったイケメンだ。がんばれ私。負けるな私。 「藍さぁーん……」 「あっ、由黄ちゃん」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!