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八、素敵な覆面・紫藤さん
水色のシャツの上にグレーのスーツを着た水樹さんは、離れていく私に目もくれない。
黙々と水色のマシュマロを食べている。
私より甘いものが気になるのね……。
さっき水樹さんが落としたバッジは、そのままアイスティーのグラス中に入っている。バッジは男女ともに白いハート形。
水樹さんの番号知りたかったなあ。後で全員と3分ずつ話せる時間があるからその時にメモしよう。
「朱理先輩、どうして邪魔してきたんですかー? せっかく友達できると思ったのに」
「友達なんて作ってる場合じゃないわよっ。もっとたくさんの男性と話したほうがいいわ。時間は限られているんだから。ねえ藍ちゃん、あの紫の覆面の人どう?」
朱理先輩が紫芋のスウィーツがたくさんのったテーブルのほうをアゴでさした。
背が高くて、紫の覆面の人が紫芋タルトを食べている。
うわあ、素敵な覆面。気になる……。
目の周りは白く縁どられていて、頭にはカブトムシみたいなツノがついている。今日見た覆面の中で一番かっこいい。
「すっごく素敵な覆面です……」
「あの人と少し話したんだけど、プロレス好きなんですって。藍ちゃん、声かけてくるといいわよ」
「えっ! だから私を呼びに来てくれたんですか。が、かんばりますっ」
「藍ちゃんガンバ。それじゃーね」
よし、紫の覆面の人に声かけなくちゃ!
あの人の名前は紫がつくのかな。
紫がつく名前ってなんだろう。
ちょうど一人でケーキを選んでいる。
チャンスだ。
私は小走りで紫の覆面の人に近づいた。
普段は自分から気になる男性に声をかけるなんてできないけど、やっぱり覆面をかぶっている効果だろうか、いつもより積極的な自分がいる。
「あのっ、すみませんっ」
「あ、はい」
おお、声もかっこいい。
「紫の覆面似合いますね!」
「えっ、本当ですか? ありがとうございます。結構気に入ってるんですよね。かぶったまま帰りたいくらいです」
近づいてみたら、紫の覆面の人は私よりもずっと背が高かった。180センチくらいありそう。覆面からのぞく目はくっきり二重で、まつげが太くて長くてバッサバサだ。
「私、覆面プロレスラーが好きなので、かっこいい覆面が似合う人うらやましいです」
「えっ、プロレス好きなんですか?」
「はい。自分の好きな選手しか知りませんけど」
「僕もプロレス好きですよ。誰のファンなんですか?」
私は好きな覆面レスラー達の名前を何人かあげた。
「その人達だったら、来週やる『覆面プロレス祭り』に出ますよね。見に行くんですか?」
「覆面プロレス祭り? 何ですか、それ」
「いろんなプロレス団体の覆面選手がたくさん参加して試合が組まれるんです」
「ええっ、知りませんでした! いいですね。観に行きたいです!」
「良かったら一緒に行きませんか? 僕、いつも1人でプロレス観に行ってるんです。帰りに感激を語る相手がいたらいいなあって思ってたんです。割引券もあるのでどうですか?」
「ええっ。……どうしようかな」
「あっ、急に言われても困りますよね。すみません。じゃあこれ、割引券あげます。当日会場の受付で見せれば割引料金で入れます」
「いいんですか? 頂いちゃって」
「近所のコンビニにたくさん置いてあって何枚か持ち帰っていたんで大丈夫ですよ」
「行けるかどうかまだわからないですが、ありがとうございます」
紫の覆面の人から割引券を受け取った。
ぴんぽんぱん、ぽーん♪ 合図の音がした。
婚活パーティーの司会者がお知らせする。
「みなさーん! あと20分でフリータイムが終わります。なるべくたくさんの人と話ができるように、今話してる人じゃない人と話しましょーう」
「えっあと20分なんだ、早いな」と紫の覆面の人。
「違う人と話さないと、いけないんですね」
「せっかく話が弾んでたのに。残念だな」
「あの、お名前は?」
「しとうです。紫に藤で」
「紫藤さん……。えっと番号は12番ですか」
男性は白いハート形のバッジに青で番号が書いてある。急いでメモをした。
「そうです。あなたは?」
「田中藍です。藍色の藍です。13番です」
女性は赤で数字が書いてある。
「覚えました。じゃあ、また。よろしくお願いします」
「あっ、はいっ!」
紫の覆面、紫藤さんが去っていった。あっ、由黄ちゃんに話しかけた。
どうしよう。巨乳の由黄ちゃんにとられちゃうかな。由黄ちゃんはオレンジの覆面・橙矢さん狙いだよねえ?
遠くから紫藤さんと由黄ちゃんを見ていたら
「す、すすすみませんっ、いいですかっ?」と、小柄で白い覆面の人に話しかけられた。
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