三、覆面かぶってみた

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三、覆面かぶってみた

 受付には係の女性と、他の参加者の女性達がいた。みんな白やパステルカラーのふわふわっとした服で、髪をゆるーく巻き巻きしていた。   「藍さぁん。私、初めて婚活パーティーに来ましたが、みんな似たような格好なんですねぇ」 「うん、そうだね……」  久しぶりの婚活なので忘れていたが、私の朱理さんにゆるーく巻き巻きしてもらった髪型は、別に有利ではなく普通であった。覆面の襟足部分から髪がはみ出してても、みんなおんなじ髪型じゃん。  男性達は女性達より受付時間が早く、もう受付を済ませてパーティー会場にいるそうだ。素顔を見せない為に時間がずらされている。   身分証明書をそれぞれ提示して、500円を払った。 「2人とも、いい? 今日は参加者全員、名前に色がつくんですって。女性は参加費500円だけど、男性は2500円だから、パーティー中に参加費の話はしないようにね。気まずくなるだろうから」 「えっ、そうなんですか。わかりました」 「5倍も違うんですねぇ」 「婚活パーティーって大体そうなの。女性より男性の方が参加費高いのよ。さて、覆面どれにしようかしら」  色とりどりの覆面と鏡が用意されていた。 「藍さぁん、よかったですねぇ。いろんなデザインの覆面がありますよぉ」 「ホントだ。私、覆面プロレスラーは好きだけど自分がかぶるのは初めてだよ。選手のレプリカマスクってけっこう高いんだよね」  受付の人が「男性に覚えてもらえるように、覆面は名前の色と同じ色にするといいですよ。」とアドバイスしてくれた。 「それじゃぁ、私は黄色ですねぇ。」  早速、由黄ちゃんが黄色の覆面をかぶった。頭部に丸い耳が付いている。 「由黄ちゃん、似合うね。その丸い耳も可愛い」 「ふふふ。そうですかぁ?」 由黄ちゃんは鏡をのぞき込んだ。 「……! タヌキみたいじゃないですかぁ。嫌ですぅ」 「えっ、大丈夫だよ。可愛いよ!」 ほんとに、タヌキみたいで……。 「藍さんもかぶってくださいよぉ」 「うん」  私の名前の藍色っぽい、青の覆面をかぶった。覆面のおでこ部分にピンクのハートマークが付いていた。  「あら、藍ちゃん弱そうね。弱小レスラーみたいよ」と先輩がひどいことを言う。 「えー、そんなあ。鏡見てみよう。うわ、ホントだ。弱そう……。ブサイク……。こんなんでパーティー参加したくない……」 「そんなことないですよぉ。ハートも付いてますしぃ。可愛いですよぉ」  今度は由黄ちゃんが私をはげましている。 「思ってたんと違う……。ブス……。もっと、かっこいい覆面レスラーみたいになると思ってたのに」 「大丈夫よ! みんな似たような顔になるわよ。私も、かぶろっと」  朱理先輩は、朱色っぽい赤い覆面をかぶった。覆面のおでこの部分に王冠のマークが付いている。 「似合いますねぇ。かっこいいですぅ」 「素敵です! 女子プロにいたら人気出ますよ!」 「本当? あら、結構イケるじゃない」  鏡を見て御満悦の朱理先輩だ。スマホでカシャカシャと自撮りを始めた。 「王冠のマークも付いてて、婚活の女王って感じですね」 「それは……良い人が見つからなくて、ずっと婚活してるみたいじゃないの」 カシャカシャカシャカシャ  角度を変え、ポーズを変え、自撮りしまくるナルシストな朱理先輩。 「記念に三人で撮りましょ」 「えっ、私は似合ってないから写りたくありません」 「私もタヌキみたいなので写真は嫌ですぅ」  耳の付いた覆面をかぶってなくても、由黄ちゃんはタヌキみたいで可愛いよ。 「大丈夫よ。記念だから」 「「は、はぁい……」」 カシャカシャカシャカシャ 「ほら見て、よく撮れてる! いい思い出になったわ」  私・藍が青、由黄ちゃんの黄色、朱理先輩の赤で信号機の色の順で写真に写った。 「これで終わりじゃないですよぉ。これから婚活パーティーですからぁ。いい人見つけないとぉ」 「いっけない、そっちのが大事だったわ」 「私は早くケーキが食べたいです」 「藍さぁん、私もケーキ楽しみですよぉ」  由黄ちゃんは、ぽっちゃりの見た目どおり食べることが大好きだ。グルメである。 「そうだ、良い人が見つからなくても、たくさんケーキを食べられれば今日はもういいや。こんなブサイクな覆面女、誰も好きになってくれないよ」 「藍ちゃん! まだ諦めるのは早いわよ!」  
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