知っているところ。

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知っているところ。

また同じ夢を見た。 何度も見たことがある夢なのだが、やはり記憶は定かではない。 山の中のどこかであることは確かなのだが、他に見覚えのあるものはない。 おおきな木がある事と、そこそこの勾配の坂で曲がりくねっている。 そんな様子が、俯瞰されて見えている。ちょうど木の上から眺めているようでもある。 その光景が印象的だから、覚えている。 まさに、天狗か何かになって大木の上から下界を見下ろしているような構図だった。 もちろんその視界には、たぶん自分自信が見えている。 なぜ自分が見えているのか…は分からない。 いわゆる幽体離脱のパターンなのかも知れないし、本当は自分ではない他人の分身を見ているだけなのかも知れない。 そんな不思議なはずのことを、まるで知っているかのように理路整然と理解している自分がいる事だけはわかる。 なぜ分かるのか? そんな一部始終を何度も見ているからなのか。 繰り返し見ているうちに、これは何度も体験している事なんだと、漠然と感じるからなのか。 自分自身の体験なのか、はたまた誰か違う人格の経験なのかは定かではなかった。 事実、その場所は知らなかったはずなのに、後にこの場所を訪れることになって初めて知って居たことを思い出した。 これは、デジャブなのか。 そんな既知体験とは何か違う気がする。 忘れていただけのことなのだろうけれど、今の自分は確かに来たことがない。にも関わらず覚えていたとはどういうことか? それは普通の記憶なのか。特別な記憶なのかは知る由もない。 自分ではない誰がの記憶が自分の体験となって思い出されている。 所詮夢なのだから、気にするまでもないが。 知らないところを知っていたことを受け入れるためには、まだ少し時間が必要なのだろうと思った。 そして、気を取り直して上を眺めるとそこには光を反射してキラキラと光る水面があった。 夢の中。水の底。 そして、林。 山の中だった。
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