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デフォルト
いつも夢は唐突に始まる。
そうだ。あれから、もう2回目の春が過ぎようとしていたのだった。
幸せな時間がずっと続くと信じていたのに、彼女は突然僕の前から姿を消した。
居なくなった当初は、心当たりを全て探し、夜も昼もこの町中を探し回ったものだった。
どこもかしこも探し回って、とうとう途方にくれるしかないとなった。
場面は変わる。
その時は気にも留めないで居たが、後から思い起こせば何か特別な意味が込められているのではないか。そんな気がした。
彼女は、お互いのことを詳しく知らなくても信じ会えると言っていたし、言葉も説明も必要ないと言った。
ふたりにとってお互いは必要だったし、巡り会えたのも偶然ではなく必然だと思って疑わなかった。
彼女にとっても同じだと言うことは、わざわざ聞くまでもなくわかりきったことだった。
さらに、その様子からもまさか、そんな事があるなんて思っても見なかったし、あの自由な振る舞いからは想像だにできなかった。
ただ、ふとした時に、哀しげな横顔が気になったので聞こうとした時に、被せるように言った言葉が蘇ってきた。
「こんな出会いがあると思えなかったわ。」と。
その時は、「でもこんなふうに出会えたから、結果オーライね。贅沢言っちゃいけないわね。」と朗らかに笑っていたので気にもしなかった。
そして、彼女は姿を消した。
居場所も行き先も知らせずに、完全に居なくなった。
ふたつきあまりの幸せな時を、全てを完全に冷凍保存して何処かへ行ってしまった。
書き置きも、メッセージもなしに突然姿を消す意味があるのか?
どうだったのか?分からない。
もう一つの手がかりがあるとすればいい、姿を消す日に言った言葉がある。
「デフォルトって…」
「初期状態って事よね?プログラムって再起動すればデフォルトに戻るのよね?」
そうねと言って気にも留めなかったけれど、彼女は彼女のデフォルトを求めて姿を消したのかもしれない。
デフォルトに立ち返るために、時間が必要な事があったのかもしれない。
そして、もう一度始めるために、一時停止させたままリセットの道を選んだのかも知れない。
あれから、僕はその可能性に賭けて、この席で来ないはずの君を待つことにした。
探し回って、何処かで見つける事ができるかもしれないけれども、ここで待つことにした。
ほとんど、未練がましい単なる思い込みなのかも知れない。姿をかくすなんて、程のいい別れかたに過ぎないのかも知れない。
いくら待っていても、ふたたび姿を現さないかも知れない。
だから、僕も冷凍保存することにした。
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