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入学式当日、天気は快晴。
新しいスタートには素晴らしい日だった。
新入生たちも目を輝かせながら校舎へと向かっていた。
その瞳はギラギラとして興奮が抑えきれないようだった。
そんな子どもたちの中に、1人だけ無表情の生徒がいた。
線は細く短く切り揃えた髪型の真新しいランドセル姿の少年は、一見大人しそうに見える。
そんな彼はこの喧嘩ばかりの荒れた学校にはとても似合わない存在だった。
だから、彼は格好の餌食にされてしまった。
「おい、そこのモヤシ」
「おぼっちゃまがなんでこんな所にいるのかな〜?」
校門を抜けた瞬間、たちまち5人の少年たちに囲まれてしまった。
彼らの目は、獲物を見つけた獣のように悦びに溢れていた。
「別に、ここの生徒だから」
そんな視線には目もくれず彼は通り抜けようとしたが捕まってしまった。
「おいおい、逃げんな......」
ランドセルを掴んで引っ張った少年はヘラヘラと笑っていた。
だが次の瞬間聞こえてきたのは、固いものがぶつかる音だった。
「......えっ......?」
何が起きたのか分からない状態で最初に感じたのは、鼻から何かが滴り落ちる感覚と灼けるような痛み。
そこでようやく自分が殴られたのだと理解出来た。
殴った相手は1人しかいない。
あのひ弱そうな場違いな少年。
圧倒的に弱いはずの少年。
絶対に自分が勝てる相手。
だけど、現実は明確に違っていた。
気がついた時には、目の前に拳があった。
何かが折れたような感触とともに身体が倒れた。
それでも拳は顔目掛けて振り下ろされた。
たった3発。
それだけで地面に縫い付けられたように動けない。
他の子どもたちも、それを見ていた野次馬も。
たった1人にやられた。
泣き叫ぶ声がどんどん大きくなっていた。
怖くて早く逃げ出したかった。
そうしないと死んでしまうと本能的に感じた。
無表情のまま殴り続ける少年に狂気を感じた。
自分たちも暴力を振るってきたけれど、それとは比べ物にならないくらい。
同じ人間ではないと思ってしまうほどに。
狂気の少年がレンガを持って自分を見下ろしていた。
瞬きせずに見つめる瞳は、鋭く冷たかった。
「弱いヤツは消えろ」
その言葉とともにレンガを振り上げた。
澄んだ青空に浮かぶレンガの色は、空の色より鮮やかだった。
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