相合い傘の誘い方

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 演劇部なんて自堕落な人間の集まりでさ。  誰も掃除をしないから、すっかり部室が汚くなった。  今日は部活なかったんだけど、耐えかねた僕一人で掃除をしていたら、すっかり遅くなってしまった。  大量のゴミを捨て終わってから気がつけば、もう誰も校舎に残っていなそうな時間である。  慌てて帰ろうとしたら、外はすごい雨が降っていた。  いわゆるゲリラ豪雨ってやつだろうか。  何だかものすごい土砂降りだ。  傘も持たずに外へ出れば五秒でずぶ濡れになりそうだ。  玄関のトコで途方にくれていたら、僕の背後で声がした。 「あれぇ、まいったなぁ」  聞き覚えのある声に振り返れば、同じクラスの広沢優香が苦笑しながら外を見ている。 「すっごい雨だね。どうしよう?」  彼女は僕に向かってそんな事を言いながら笑ってみせる。  ……これはチャンスなんじゃないだろうか?  広沢は美人じゃないし、胸だって小さい。  髪も短いしメガネだから、男子の人気は全然ない。  でも僕は隣の席だった頃、休み時間に話をしたり、ノートを見せてもらったりした事がある。  たまに見せる笑顔がかわいい。  案外といたずら好きなのも知ってるしね。  僕は彼女が好きだ。独り占めしたい。  もう少し仲良くなれるといいなとずっと思っていたんだ。  この時間まで広沢が何をしていたのか知らないが、ついにチャンスがやってきた。  そう、相合い傘である。  雨の日に男女が親密になれるのなら、それは相合い傘を置いて他にない。  強い決意を胸に僕が顔を上げれば、彼女は一歩下がって距離をとる。 「……な、何かな?」  メガネの奥の彼女の瞳が困惑に揺れる。 「大丈夫だ、広沢。ここで少し待ってくれ!」  返事も待たずに僕は廊下を走り出す。  傘だ、どこかに傘はないか?  どっかの教室に置き傘や忘れ物があるのではと思ったけど、みんな考える事は同じなようで、そんなの、とっくに持ち去られた後だった。  ごみ捨て場でビニール傘を見つけたときは、嬉しくなって涙が出た。  よく考えたら、この傘はさっき僕が部室のゴミとして捨てたヤツだが、まあ気にしまい。  玄関に戻れば、広沢は退屈そうに待っていた。 「ねえ遅いよ! 何してたの?」  僕は彼女の文句を無視して玄関を出る。 「まあ、こんなワケでね」  言いながら傘を広げた僕は一瞬でずぶ濡れになった。 「……どんなワケなのか、全然分かんないよ?」  あきれ顔で広沢が呟く。  そうだった。  この傘、破れて使い物にならないからゴミにしたんだよ。  豪雨に打たれて呆然と立っている僕を見ながら、広沢は深い溜め息をつく。 「もう手遅れだとは思うんだけどね」  彼女はそう言いながら肩から掛けているバッグの中に右手を入れる。 「あたし折り畳み傘、持ってるから一緒に入ろう?」  
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