君がいた証

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君がいた証

 一週間後。  帰路に着こうと下駄箱まで来たところで突然の雨が降り始める。 「あーあ。・・・・でもこんな時のためのレンタル傘なんだよなぁ」  レンタル傘制度はその利便性ゆえに生徒会が運営する形で残っていた。  俺はレンタル傘箱に残っていた最後の一本へと手を伸ばす。  しかし伸ばした手は空を切り、傘は目の前を通り過ぎていった鶴瀬の手の内に収まっていた。 「いやー。最後の一本あってよかった-!」 「おい。ふざけんなこら」 「えー?やだやだ。そんな怖い顔すると、先週の件で先に暴力振るったのは尾上くんの方でしたって先生に言っちゃおうかな~」 「はぁ。わかったよ。その節はどうも色々とお世話になりましたよ」  鶴瀬は先週の黒浜たちと俺との喧嘩騒動をどこかから見ていたらしく、結果的に俺が不利な立場にならないよう学校側へ掛け合ってくれたらしい。 「ふん。まぁ容姿端麗・文武両道な私が言えば嘘も実になっちゃうからね~」 「あぁ、まじめんどくせ」  鶴瀬はなにやらニヤニヤとながらその場にとどまっている。 「あれあれ洋斗。傘が無いみたいだけど大丈夫?」 「・・・・大丈夫だよ別に。早く帰れよ」  鶴瀬は咳払いをし、妙に低い声で気取って話し始めた。 「洋斗。人間関係で大切なことを教えてやるよ」  嫌な予感がする。 「・・・・おいやめろ」 「それはな“頼ること”だ。優しかったり強かったりするだけじゃ・・・・」 「あーわかった!わかったから!・・・・その傘を貸してください。お願いします」 「いやいや、違うでしょ洋斗。正しくは“七海さん。僕と相合い傘をしてください。お願いします”でしょ~」 「はぁ!?ふ、ふざけんなアホ。するかバカ!」   藤田がこの学校にいた証は確かに残っている。  藤田が残したレンタル傘を通して、こうして今も大切な人と人との繋がりが生まれているのだから。   時が経ち、大学生になった藤田は自身で立ち上げたベンチャー企業において“レンタル傘”をモデルとした様々なシェアビジネスを社会的に展開し成功を収めた。  そんな藤田は人望も厚く、優しくて強い、そして時には“頼ることが上手な”良い社長になっていくのだが、それはまた別のお話。  
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