お昼は盛り蕎麦くらいがいい、山葵は少しで。

3/9
237人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
何度も言葉では、御両親という形で登場してきてはいますが、具体的に芽生の生活に全く匂わないその存在は、関わるどころか寧ろ、放棄しているかもという予想の範疇を出てはいませんが、翼としては気色ばむのに十分でした。 ただ先輩の方は手で、"落ち着きなさい"という仕種(ジェスチャー)をした上で、翼が座っていたパイプ椅子に座る様に促したなら、話しを続けます。 「ご両親の仕事の関係上、一緒に住めないという可能性は否めないけれども、でもやっぱり家族なら可能な限り、大体一緒に住むものよ。 "色んな家族の形がある"と昨今は言われてはいるけれども、それは家族全員の了承があってこそだと思うわ。 仮に、大人の方針に合わせて、祖父母が子どもの面倒を見て、両親は共働きというのを、今回のケースに当て嵌めるのなら、それを孫娘の芽生ちゃんが懐いているというおまわりさんの山田にだって話してもいいはずよ、でもそういった話は全くないんでしょう?」 まるで尋問のような物言いですが、それは時間を無駄にしない為の警察としてもまた芽生という少女を心配する"おまわりさん"としての物言いであると伝わってくるので、翼は自分の蕎麦湯を湯飲みに注ぎながら頷きます。 そして後輩の肯定を見届けてから、先輩はこれまで自分が"生活安全課"の児童虐待のサポートセンターで経験した事案(ケース)を重ね合わせて、自分の見解を口にしました。 「それにそういった事情なら、学校もカウンセラーさんも山田に告げた上で、さっさと御両親に連絡をして芽生ちゃんを捜すのを始めているはずよ、それをしないって事は鍵はやはり芽生ちゃんの両親かもね……」 そう言いながら水前寺は自身のスマホを取り出して、その画面が翼に見えるのも構わずに、操作してある画面を見つめて、口角を下げて不機嫌そうな表情になります。 「うーん、課長に何かしら芽生ちゃんらしい女の子の情報を見かけたなら、流して欲しいと頼んだんだけれども、まだ何もないみたい」 「そうですか……」 そこまで話したなら、一息を着くように互いに蕎麦湯を呑みました。 「そう言うわけで、リミットは本日のヒトハチマルマル、18時、夕方の6時ね、山田巡査」 「は?……え?!、でも、そのカウンセラーさんとか、学校とか?!守秘義務とか?!」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!