エピローグ 最果ての約束

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「はい。男同士ですから、正確には結婚じゃないんですけど。  世話係を辞めてもらって、  僕の家族になって欲しいと思っています」  そう躊躇いもなく続けたユリアに、  オレはパクパクと無意味に口を開閉させた。  改めて家族に伝えると、胸がこそばゆい。  ダンとギルが顔を見合わせる。  それからパッと顔を綻ばせた。 「おめでとう、兄さん」 「おめでとう兄ちゃん!!」 「え……」 「どうして驚くの?  まさか、俺たちが反対するとでも思った?」 「や、それは思ってねぇけど、  でも、なんか、もっと、ええと……」  正直なところ、拍子抜けした。 「立ち話もなんだし、中に入ろう。  しばらくうちに滞在するんだよね?」 「ああ。そのつもりだった」 「良かった。カレンも喜ぶよ」 「カレンさん?」 「長女だよ」と応えて、オレは改めて弟妹の紹介をする。 「一番上の弟がコイツ――ダンだ。  で、次に……今は見当たらねぇけど妹のカレンと弟のアーサーがいて、  その下にギルバート、クリスが1番下だな」  ダンの後ろから顔を覗かせていたクリスが隠れる。  オレは苦笑と共に、弟に向き直った。 「それで、カレンたちは何処だ?  小煩い声が聞こえねぇけど」  その時だ。  馬の蹄の音が聞こえると、  門のすぐ目の前で1台の馬車が停まった。  乱暴に扉が開く。  続いて、カツンとヒールを鳴らして小柄の女が出てきた。  ふたつに編んだ髪が、動き合わせて肩のところで跳ねる。 「もう、式やるなんて言わなきゃ良かったわ。  なんで一度しか着ない服のために、  貴重な一日潰さなきゃならないのよ。  ……って、あれ? ええっ!?」  そうして、彼女おはオレの顔を見て素っ頓狂な声を上げた。  カレンだ。 「姉さん、待って。まだ生地が――わぶっ!」  その後を追うようにして、黒髪の少年が馬車から出てくる。  彼は3男のアーサーで、両手に荷物を抱えた彼は、  カレンの背中にぶつかって、派手に尻餅をついた。 「久しぶり」  変わりない妹弟の姿に思わず噴き出す。  片手を挙げれば、アーサーが目をまん丸に見開いた。 「に、ににに、兄さん!? ついに死んで戻って……っ!?」 「や、生きてるし」 「きゃああああ! お兄ちゃーーーんっ!!!」  カレンと、荷物を放ったアーサーが飛びついてくる。 「おっと……元気そうだな」 「本当に? 本当に兄さん、死んでない?」 「生きてる、生きてる」 「夢みたい……もう会えないと思ってたよぉ……」  驚いたような顔をするユリアに気付いて、オレは肩を竦ませた。  家族が集まると賑やかこの上ない。  静かな屋敷で暮らしていたユリアには、  目新しい光景なのだろう。 「でも、ホントに良かった」  カレンが体を離すと、クスンと鼻を鳴らす。 「お兄ちゃん、逃げてこられたんだね。  あたしたち、ずっと心配してて――」  ゴホンと、ダンが空咳を落とした。 「カレン、お客さんの前だよ」 「え? あ……っ!」  カレンがユリアに気付き、ハッと両手を押し当てる。  ユリアが困ったように会釈すると、  代わりに、ダンが口を開いた。 「全員揃ったことだし、今度こそ中にどうぞ。  すぐに食事を用意させますから」  開いた玄関扉の向こうに、頭を下げる数人のメイドの姿が見えた。
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