エピソード3 可愛がられるのも世話焼きのうち?

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「紅茶、お口に合いませんか?」  唐突に立ち上がったオレに、ユリアが不安げに瞳を揺らす。 「そうじゃねぇ。紅茶はめちゃくちゃ美味い。  じゃなくてさ……オレ、朝から何もしてねぇんだよ。世話係なのに」  綺麗な服を着て、美味いもん食って、腹ごなしに散歩して、また美味いもん食って。  給料分働くどころの話ではない。むしろ天引きされても文句が言えないレベルだ。 「こうして一緒にお茶を楽しむ、じゃ仕事になりません?」 「楽しいから、より仕事って感じがしねぇ。  お前がムカつく甘ったれな坊ちゃんなら、まだ仕事だって考えられたけど」  ユリアがきょとんとする。 「楽しい……」  それから、誰にともなく呟くと頬を染めてもじもじした。  オレは必死で、世話係の仕事を探して思考を巡らせる。  身支度の手伝いは不要。  繕いものや、皿洗い、ゴミ捨て等の屋敷を維持する仕事はもう人手が足りている。  じゃあ、オレに出来ることってなんだ?  ふと、ユリアの指が視界に入った。  大きい手だった。指はスラリとしているが、太くて長い。  綺麗なアーモンド型の爪は短く切りそろえられている。  例えば、そう……エロいこととか?  ――って、ダメだダメだダメだ!!  オレは慌てて頭を振った。  ただの前職のクセだ。  断じて、ちょっとも、やましい気持ちなんて持ってない。いや、マジで。 「メイドにも相談してみたんだけど、間に合ってるって言われちまってさ。  でも、このまま何もしないで過ごすのは、怖いんだ。  一通りのことは出来るよ。出来ないことはすぐ覚える。  だから、なんかオレに仕事をくれないか」 「そうですね……ご存じの通り、ハウスキーパーは間に合ってますし、  僕の世話と言っても……」  ふと、ユリアが言葉を途切れさせる。  何か思いついたのだろう。オレはすかさず身を乗り出した。 「何かあるんだな? 言ってみろよ」 「その……笑わないで、くださいね?」 「もちろん」  ユリアが視線を彷徨わせる。  それから、ポツリと呟いた。 「……ギュッて、してもいいですか」
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