エピソード4 秘密

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エピソード4 秘密

 ――半年と言う時間が、あっと言う間に過ぎた。 「良い感じに水分抜けてるな」  バラ園をぐるりと回ったオレは、籠の中からハサミを取り出すと、  さっそく剪定を始めた。  風通しを意識しつつ、枯葉、枯れ枝は見つけ次第すぐに取り除く。  古い枝、向きの悪いものも一緒に切っていく。   半年間、毎日休みなく庭園に通っているだけあって手慣れたものだ。  ここ最近は、ユリアの体調が悪い時などはオレ一人で手入れをするくらいには、  任されるようになっている。 「よしよし、綺麗だぞ」  目映い陽光の下で、美しく咲く青いバラは堂々としていて気品があった。 『花は裏切らないんです』とユリアが言っていたけれど、その通りだと思う。 「愛した分だけ綺麗に咲く、か。シンプルでいいよなホント」  誰にともなく呟きつつ、ハサミを入れていく。  ふいにピアノの音色が聞こえたのは、そんな時だ。 「……ったく、寝てろつったのに」  今日のユリアは見るからに体調が悪かった。  だから、一緒に庭に行くとだだをこねる彼を、わざわざ寝かしつけてから出てきたのだ。  これは早く戻って、またベッドに追いやらなければならない。 「……あたっ」  その時、指先に痛みが走った。  バラの棘を刺してしまったようで、赤い血がプクリと盛り上がっている。 「ああ、もう、悪かったよ、世話してる最中に他の奴のことなんて考えて。  でも、お前の主人のことだぞ? お前だって主人に会いたいだろ?」  苦笑をこぼしながら、オレは手入れに戻る。  庭にいる間中、優しいピアノの音色は止むことはなかった。 * * *  庭園の世話を終える頃にはすっかり日も陰っていた。  汗を流してから、坊ちゃんの部屋に向かえば、待ち構えていたかのように目の前で勢いよく扉が開いた。 「バンさん、お疲れ様です」 「お前な……寝てろっつったろーが」 「もう元気ですよ。ほら」 「っ……!」  いつものようにユリアがオレを持ち上げる。  気恥ずかしいものを感じながらも、オレはユリアの好きなようにさせた。  時折頭を撫でれば、彼は心地良さそうに目を細める。  オレはユリアの肩に顎を置いた。……胸がドキドキしている。  半年一緒に過ごして、オレは彼が本当に裏表のない青年だということを知った。  時折、甘えが過ぎることもあったけれど、彼の環境を思えば仕方がない気がする。  ユリアは本当に一人ぼっちだったのだ。  彼の保護者という祖父は、この半年屋敷に姿を見せることはなかった。  オレが以前会った、ハルという叔父もしかり。  大勢の使用人はいるが、彼らがユリアと会話をすることはない。  徹底的に教育された使用人たちは、ユリアの視界に入らないよう努め、かつ、互いに会話することもなく、粛々と無表情で仕事をこなしていた。それはまるで、初めから存在すらしないかのように思えるほどだ。  だから、ユリアがこうしてオレに触れたく思うのも仕方ないと思う。  オレだって、こんな場所にいたら自分を保っていられない。  温もりを確かめずにはいられない。  ここは、檻だ。  豪奢に飾り立てられた、虚飾の檻。  ユリアはここに閉じ込められている…… 「……あれ? 血の匂いがする」  すんすんと小鼻を振るわせて、ユリアが俺の手を取った。 「大変だ。ケガしてるじゃないですか!」
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