花火

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人混みに流されながら、なんとか会場に着く。 川沿いで、手を振る渚の姿が見えた。 浴衣を着ている渚が、こっちを見ながら叫ぶ。 「せんぱーい!!こっち!こっちー!!」 渚は立って、私たちを呼んだ。 「あ!渚ー!!」 ちいちゃんが走って渚のもとへ向かった。 あとについて私たちも向かう。 渚がいる場所は、河川敷の目の前で。 花火が目の前で見える場所だ。 「すごい、本当に特等席だ。」 私もびっくりしてしまう。 「先輩たちは、向こうに場所とってるっす!」 私と先生に、あっち、あっち!と右を指差す渚。 「あっちって、どこだよ。案内しろよ。」 「わかりました!。着いてきてください!」 ちいちゃんを残して、渚のあとに着いて行くと、ちいちゃんたちから100メートルくらい離れた場所に、1区画、2人が座れるくらいのブルーシートが敷いてある。 「ここっす!。ここからも、花火目の前っすよ!俺すごいでしょ!?」 渚が得意げに話す。 「へぇ。おまえ何時からこことってたんだ?」 先生が渚に聞く。 「12時っす!」 「12時??」 びっくりして、声を出してしまう私。 12時って、、、渚、すごいなぁ。 隣にいる先生も呆れた様子だ。 「、、、おまえ、すげえな。」 「だって花火大会っすよ!?年に一度っすよ?。これくらいやりますよ!!」 誇らしげに言う渚。 「おまえが花火にかける情熱はよーくわかったよ。」 先生も、呆れながらも渚へそう声をかけている。 でも、立って遠くから見るのかと思ってた私にとっては、この場所は最高だ。 「渚、ありがとね!!」 渚にお礼を言う。 「ありがとな」 先生も、席を取っていてくれた渚にお礼を言った。 「なんもいいっすよ!先生達も楽しんでください!!あ、これ買ってきたんで!」 そう言ってお茶が二本入ったコンビニのレジ袋を先生に手渡す渚。 ここまで気をきかせてくれるとは。 渚らしいな。 本当に渚は優しい。 「ありがとう!」 「なんも、いーんすよ!じゃ!!俺行くんで!!。シート、使わなかったら捨てちゃってもいーんで!!100均なんで!!じゃ!!」 そう言って、渚はちいちゃんのもとへと走って戻って行った。 「すげえな。かいつのあの行動力。12時からずっとここにいたんだろうな。俺には無理だ。」 そう言って先生は呆れて笑いながら、ブルーシートに座った。 「俺はここに来るだけで疲れたよ。」 先生はそう言って、渚からもらったお茶を飲む。 「すごいね。でも、嬉しいな。ここからだったら、花火目の前だよ!」 立ちながら、辺りを見回す。 河川敷から打ち上がる花火を目の前で見れるなんて。 「おまえも座れば?」 そう言われて、私もブルーシートに座った。 浴衣着崩れてないかな? 帯周りを気にしていると、先生が私を見て言う。 「それ、おまえに似合ってるな。」 「え?」 浴衣を見ながら、先生が続ける。 「いいな、彼女の浴衣姿。」 そう言って、頭を優しく撫でてくれる先生。 顔が赤くなってしまう。 浴衣着てきてよかった、、、。 先生の隣は心地いい。 「もうすぐだよ!」 時計を見ると、もうすぐ始まる時間だ。 こんな近くで先生と花火が見られるなんて。 嬉しくてはしゃいでしまう。 そんな私を見て、優しい顔をする先生。 ドキドキする。 アナウンスが流れ、カウントダウンが始まる。 5!4!3!2!1!!! ドーーン! 爆音とともに、夜空に大きな輪を描く花火。 「すごい!綺麗」 先生も、目の前の花火を見て、 「すげえな。これは迫力だな。」 と見入っている。 大輪の花が夜空に何度も浮かび上がっては、消える。 心臓にも響くくらいの大きな音だ。 こんな間近で、先生と一緒に花火が見れるなんて。 幸せだなぁ。 花火に見入っていると、横からふっと近づく先生の顔。 先生の唇が、私の唇にふっと触れる。 !!! 驚く私に、クスッと笑う先生。 「まぁ、ここに来たら、定番だろ。」 「もうっ。」 自然と笑顔になる。 花火の煌めきと、先生の愛情を感じながら、最高な時間をかみしめた。 クライマックスは、大音量で連発の花火から目が離せない。 「すげぇな。」 先生も見入っていて、少し楽しそうだ。 終わりのアナウンスが流れると、周りは一斉に帰り支度を始める人達の群れ。 「楽しかったね!感動しちゃった!」 「そうだな。こんなに近くで見たことなかったからなぁ。」 「ちいちゃんと渚に感謝だね!」 「そうだな。」 本当にありがたいなぁ。 今度渚にお礼をしなくちゃ。 「それにしても、すげえ人だな。」 帰る方向を見ると、人の流れが見える。 「今出ても、ダメかも。」 あの波に乗るのは、なんとなく嫌な気がしてしまう。 「そうだな。もう少しここにいるか。」 先生も、人の流れを見て、少しうんざり顔だ。 「うん。」 2人で、座って夜空を見上げる。 花火の煙も、もうすでに無くなっていて、 星空が広がっている。 先生の肩に顔を乗せる。 「幸せだなぁ。」 心の声が出てしまう。 肩に乗せた私の髪の毛を優しく撫でる先生の大きな手。 周りはざわざわ騒がしいけれど。 2人の空間は、なんだか、心地よい。 花火を一緒に見れてよかったなぁ。 去年とは違う。 先生をもっと近くに感じている。 幸せだなぁ。 そう思わずにはいられない。 「また来年も来たいな。来れるかな?」 「もちろん。」 先生がふっと笑って言う。 この幸せがずっと続きますように。 星空に向かって、心の中で願ったんだ。
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