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大発見!?
「もう我慢できないから、喋っちゃお。それがね。大発見なのよ!」
約束通り、昼休みに待ち合わせたカフェで、明佳里はそう言いながら頼んだパスタを頬張った。こうして一緒にお昼を食べに出るのには当然休憩時間を合わせないといけないので、これがどうして難しい。一人だったり職場の人間と一緒だったりと差はあるが、大抵お化け時計の中の食堂で済ませてしまう。久しぶりのランチだ。
「大発見?」
問い返した私に、彼女はむぐむぐとパスタを咀嚼してから頷く。
「そう。世紀の大発見!」
「へえ。」
「ちょっと、真面目に聞いてよ。」
「聞いてるけど、発見だけじゃなんにもわかんないし。」
呆れて見せた私の前で、明佳里はパスタの乗った皿のとなりに肘をつく。私の方へ内緒話でもするかのように、少し顔を寄せて、ニヤリと笑った。
「茉日留はさ、異世界って、信じる?」
「…異世界?」
異世界。概念的には、割りと身近に聞き覚えのある単語だ。平行世界、死後の世界あたりが有名どころだろうか。幻想小説なんかでは、神様のいる世界や魔法のある世界なんかが登場することもある。まぁでも、明佳里はたぶん、本当にあるかどうかを聞いているわけで。
今まで観測されてないから、実際にあるかどうかというより空想上の概念とするのが一般的だ。だけど、ないとは言い切るのも難しい。いわゆる悪魔の証明である。
「無いと決めつけるのは早計。あるとは思ってないけれど、あったら面白いとは思う。」
「つまりは、そこそこ信じてる。」
「まぁね。」
目を輝かせる明佳里をいなすように、私は手元の皿のなかでペンネにフォークを刺す。口へいれるとトマトソースの酸味と香りが広がった。この店には何度か来ているけれど、相変わらず美味しい。
「ほんとにあったら?しかも、もし、異世界に行けるとしたら。」
「そりゃ、楽しそうだ。」
隣の世界へ遊びに行く。ロマンの塊みたいな話だ。坂道だらけの迷路の町よりずっと冒険が出来るだろう。でも本当に冒険がしたいなら、異世界に行くより先に、世界旅行へ行った方がお手軽だけど。
「それがね。本当に行かれそうなのよ。」
輝いた目を得意気に細めて明佳里が言った。なにやら満足した様子で、彼女は乗り出していた体を引いて、もう一口パスタをすする。
「…マジ?」
「大マジ。」
「……まじか。」
「パスタうま。」
「…そうだね。」
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