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Night Mare -phase 01-
目に映ったのはフェンス越しの空だった。針金を編んで作ったその囲いは私の記憶には無いものだったけれど、私はそれがフェンスというのだと知っていて、足元の灰色の砂利を固めたような地面のことも、アスファルトというと知っている。フェンスの向こうは運動場で、サッカーボールが転がっていた。それを蹴っていた誰かが、今まさに消え失せてしまったみたいだった。
夏の日差しが照りつける。
アスファルトの灰色の地面は幅の広い道で、高台を下る急な坂に繋がっていく。坂の上から景色は開けて、見下ろす下の町が小さい。遮るもののない高台を強い風が吹き抜ける。蝉の声がしている。
歩きそうとすると視線の低さが気になった。靴も、それを履いている足も小さい。い、そうか。これはまだ子供の頃の。透明だったあの頃だ。世界には大人の目を曇らせる怪物が住んでいて、それは曇りない純粋な目の子供しか倒せないのだと信じていたあの頃なのだ。
眼下の町へ飛び込むように駆け出した。私って最強だ。だってまだ子供だから。
下った先は住宅街で、飛び込もうとした町はまだ程遠い。走っても走っても、だれもいなかった。角の家の、吠えかかってくる怖い犬も、植木の手入れをしているおじさんも、だれもいない。
空っぽの町。
空っぽなのは変だけど、何故か楽しくて仕方ない。通いなれた道を走って、私はいつもの秘密基地へ向かう。住宅街のはしっこの、森に飲み込まれた古い家。趣向の凝らされた洋館の隣で、蔦だらけのフェンスに囲われたテニスコートは、大人に忘れられたまま、緑の壁に閉ざされている。蔦を掻き分けて内緒の入り口をくぐれば、あちこち寂れたポカンと開けた空き地に、いつもの友達が待っていた。
「ーー!」
私は大きな声で、その男の子の名前を呼ぶ。
「やっときた、遅いよ。」
そう、彼が笑った。
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