我らが筑波

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 理沙は顔を上げて筑波山を見た。標高は高くないのに存在感がある山。美しい二つの峰。  いつかパンフレットで見た小さな筑波山を思い出した。筑波山があんなものだと思われたくない。たくさんの人に、この美しい峰を見てほしい。 「……もう少しだけ、頑張ってみようかな」  口に出すと、力が湧いてきた。嫌味な先輩やクレームの客に負けたくない。私は必ず、最高の茨城旅行を企画するんだ。 「そうか」  幹人は短く言うと、運転席のドアに手をかけた。 「じゃあ、俺、もう行くから」 「うん。仕事中にありがとう」 「そっちも仕事頑張れよ」  幹人が乗った車は、筑波山の方向へ走り出した。小さくなっていく車と大きな筑波山の姿を、理沙はいつまでも眺めていた。
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