我らが筑波

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 高校生のグループが乗り込んできた。仕事をさぼっているサラリーマンになど目もくれず、おしゃべりに興じている。彼らの言葉は訛っているのに、気にする様子もなく楽しそうにしゃべっている。  幹人も、高校生のころはそうだった。しゃべるのが怖いなんて、考えたこともなかった。  窓の外に筑波山が見えた。二つの峰をもつその山を見るのは久しぶりだった。夏の筑波山は堂々として美しく、訛りに悩む自分がひどくちっぽけに感じられる。  茨城に戻ってくれば、自分が訛っているかどうかなんて気にしなくていいんだ。  不意に、そんな考えが幹人の頭の中に浮かんだ。  高校生までは毎日見ていた山。この山を毎日見る生活に戻ろうか。  幹人は筑波山をじっと見つめていた。    * * *
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