我らが筑波

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 車社会の茨城で、散歩している人などほとんどいない。まして今日は平日で、学生たちもまだ学校にいる時間だ。理沙は誰も歩いていない道を一人ぶらぶらと歩いた。  道の両脇に広がる田んぼでは稲が黄金色の穂を実らせている。筑波山は秋の澄んだ空に稜線をくっきりと浮かび上がらせている。  理沙は筑波山と向き合って、大きく深呼吸をした。筑波山を見ると、理沙は心の中で思わず「ただいま」と言ってしまう。実家で家族の顔を見るよりも、高校時代のまま変わらない自分の部屋にいるよりも、筑波山を見たほうが茨城に帰ってきたと感じる。
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