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道端でぼんやりと筑波山を眺めている理沙の脇を、一台の車が通り過ぎた。それだけなら何も不思議ではないが、その車は一度止まり、バックで来た道を戻り始めた。
不審に思ってその車を見ていると、車は理沙の目の前までやってきて止まった。運転席の窓が開き、中から見覚えのある顔が出てきた。
「西村さん、だよね?」
「え……幹人くん?」
そこにいたのは大学の演劇サークルで一緒だった、沖田幹人だった。
「平日の昼間っからぶらぶら歩いてる人がいて珍しいと思ったら、西村さんが歩いてるからびっくりしたよ。こんなところで何してるの?」
「仕事が休みだから実家に帰ってきてたの」
「あ、西村さんの実家ってこの辺なんだ」
「幹人くんこそこんなところで……仕事?」
幹人は社名が胸に刺繍されたジャンパーを着ている。理沙の記憶では、幹人はサークルの同期の中でもっとも大手の企業に就職したはずだった。
後ろからやってきた車にクラクションを鳴らされた。幹人は「せっかくだし、もう少し話さない? すぐそこのコンビニにいるから」と言って車を発進させた。
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