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「幹人くん、仕事中だったんだよね。さぼってて大丈夫なの?」
はたと気づいた理沙が言う。
「さんざん愚痴を聞かせておいて、さぼりってひどいな」
幹人は笑いながら、「営業だから多少の融通は利くし、うちの会社その辺はごじゃっぺだから」と言った。理沙は幹人が「ごじゃっぺ」という茨城弁を言うのを聞いて驚いた。学生時代の幹人は、そんな言葉を言ったこともなかった。
「幹人くんは、どうして茨城に帰ってこようと思ったの?」
「んー、こっちのほうが楽だなって思ったんだ。給料は安いけど、都会で無理して働くよりは地元のほうがよかったから」
東京の大手企業と天秤にかけて茨城を選んだのだ。詳しく話してくれないが、よほどの決意があったのだろうと理沙は思った。
「西村さんも、疲れてんなら茨城に戻ってきたら?」
軽い口調で幹人は言ったが、心配してくれているのだとわかった。
茨城に帰る。誰にも言ったことはないが、その考えは何度も頭をよぎっていた。誰かに背中を押されたら、口から出てしまいそうだと思っていた。そして今、幹人は背中を押した。
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