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どこかに行ってしまいたいと思い、行き先も確認せずに品川駅で電車に乗った。
乗り込んだのは、常磐線だった。
幹人は人気もまばらなロングシートの端に座り、車窓を流れる風景を眺めていた。取手駅を過ぎると田んぼや畑が増えていく。何もない風景を、ただぼんやりと眺めていた。
自分が何をしたいのか、自分でもよくわからなかった。このまま会社から逃げ出してしまうつもりなのか。
幹人の会社は、誰でも名前を知っているような大手企業だ。両親も就職を喜んでくれた。営業成績が悪かろうが、上司や先輩に叱責されようが、しがみついているべきなのかもしれない。
今ここで電車を降りて上り電車のホームに行けば、さぼっていたとばれずに済むはずだ。何食わぬ顔で日常に戻れるはずだ。
そう思っているのに、幹人の腰は座席から上がる気配がなかった。
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