もう一度はじめよう
1/6
15/61

もう一度はじめよう

「お疲れさまです。お先に失礼します」 「はい、お疲れさまー」  上司に挨拶を済ませてオフィスを後にした奏は、会社を出て最寄り駅からいつもとは反対方向の電車に乗り込んだ。 混み始めた電車の隅でできるだけ小さくなって身を寄せ、十分程で目的の駅に着くと、人波に押されるようにして電車を降りた。3日前ぶりに降り立った駅から、記憶を頼りに道を辿る。  どうすれば由羅と番として良好な関係を築けるのだろうか。考え続けた奏は、一つの結論を導きだした。それを実行するにあたり、先ずは由羅と会って話をしなければならない。 別れ際に交換した番号に何度も電話をかけたが、一度も繋がらなかった。留守番にメッセージも入れたのだが、これにも折り返しは来ない。このままでは埒があかないので、由羅の家に押し掛けることにしたのだ。迷惑だろうが何だろうが知ったことではない。奏の決意は固かった。  由羅が電話にでないことに腹立たしさを覚えていた奏は、マンションまで辿り着くと、少々乱暴な手つきで部屋番号をオートロックに入力して由羅を呼び出した。しかし、いくら呼び出しても由羅は出てこない。出掛けているのだろうか。それとも居留守か。好みではないΩを番にしたことを後悔して逃げ出したのか。このままなかったことにするつもりなのだろうか。思考がどんどんマイナス方向に暴走していく。  またか、と奏は思った。いつものことだ。向こうの方から好きだ何だと寄って来るくせに、奏がその気になったら皆離れて行ってしまう。とうとう番にまで捨てられたのかと思うと悔しくて、少しだけ涙が滲んだ。 「なんだよ。出ろよっ!」  マンションの入り口で悪態をついていると、住民らしき女性がやって来た。奏は慌てて唇を噛んで俯いて顔を隠したが、女性は怪訝な顔をして奏の方をちらりと確認しながらオートロックを解錠した。奏は少し悩んだものの、結局女性の後に続いてそっとマンションの中に入る。流石に同じエレベータに乗ると怖がられそうなので、一つ待ってからエレベーターに乗り込むと、7階行きのボタンを押した。 いくらなんでもこの3日の間に引っ越したとは考えにくい。こうなったら会えるまで通い詰めてやろう。奏は上っていく数字をみつめながら、拳を固く握った。
15/61

最初のコメントを投稿しよう!