汚部屋の王子様
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汚部屋の王子様

 奏が目を覚ましたのは、カーテンの引かれた薄暗い見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上だった。一糸纏わぬ姿で、奏は布団に包まっていた。僅かに身じろぎするだけで体中がみしみしと痛い。口に出せないようなあらぬ所まで。 「ゔぅっ」  奏は呻き声を上げた。  ―――やってしまった  未経験ではないが、今まで行きずりで誰かと体を重ねたことはなかった。しかも昨夜はかなり酔っていて、行為中の記憶もその前後の記憶もまるでない。奏にはどういう経緯でこうなったのか検討もつかなかった。  恐る恐る隣を見ると、どこかあどけない表情で見知らぬ若い青年が眠っていた。掛け布団がはだけて、すべすべした白い肌を惜しげもなく披露している。その身体はかなり痩せていて、胸にはうっすらと肋骨が浮いていた。 αだろうか。しかし、綺麗な顔はしているが、αにしてはかなり貧弱な体つきだ。  奏の思考は、自分でも驚く程冷静に状況を整理し始めていた。状況証拠から奏は確実にこの男に抱かれたと考えられる。身体は綺麗になっているので、男が後処理をしてくれたのだろう。手や足には傷や跡もついていないし、相手がヤバい性癖の持ち主でなさそうなことに奏は一先ず安堵した。  とりあえずシャワーを浴びたい。人様の家の浴室を勝手に使うのは気が引けるが、隣で眠っている男を起こす勇気もない。  奏は意を決してそろりとベッドから脱け出し床に足を着けた。が、立ち上がろうとした途端に足腰に力が入らず、ぺたりと床にへたり込んでしまった。そして、目の前に広がる光景に驚愕した。 「うわっ、なんだこれ!?きったね!」  思わず大きな声が出たが、それも致し方ないことだった。床一面に大量の脱ぎ捨てられた服や紙くずが散乱し、至るところで本の山が雪崩を起こしている。そのせいで、床がほとんど見えない。その光景に奏は急に自分が置かれている状況が怖くなってきた。  ベッドの上の男は実はかなりヤバい奴で、自分はこのまま、この汚い部屋に監禁されるんじゃないか。誰にも見つけてもらえず、一生変態男と二人きり……  そんな妄想が奏の頭の中を瞬時に駆け巡り、奏は慌てて薄闇に目を凝らして、自分が着ていた服を探した。一刻も早くここから出なければと思った。 ベッドの脇に投げ捨てられていた一張羅のスーツもシャツもよれよれだったが、奏は立たない足腰を叱咤しながらそれらを身につけていく。 「ねぇ、大丈夫?」 「うわぁっ!」  なんとか服を着終えた時、突然背後から声を掛けられた奏は飛び上がらんばかりに驚いて、再び床に座り込んでしまった。振り向くと、ベッドの上から青年が無表情に奏を見下ろしていた。暗闇に浮かぶ人形みたいに白い顔がとてつもなく不気味だ。 「ごめん」 「は?え、な、何が?」  奏が固まっていると、ベッドに座ったままの男に謝られた。しかし色々なことが一度に起こりすぎて、奏は一体何に対して謝られているのかわからない。奏を抱いたことか。部屋の汚さか。はたまた、自分は想像以上に恐ろしいことでもされたのか。 考えを巡らせていると、下着姿の男がベッドを降りてこちらに近づいて来た。奏は尻餅をついたまま後ずさったが、当然逃げ切れるはずもなく男の手が伸びてくる。  奏は恐怖でぎゅっと目を閉じた。
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