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ちくわ2
ちくわが死んだ。
去年の8月の初め、いつものようにおやつを舐めさせているとあげすぎで最近太ったと母に怒られ、しばらく控えることになったが冷蔵庫前にいつもの時間にあらわれると近寄って来て鳴くのだ。夜勤の仕事前と帰ってきた時にあげていたからもう習慣になってしまっている。見るとお腹がでっぷりと出ていて歩くのも辛そうだ。心を鬼にしてあげずに家を出る。帰るとまた寄ってきて欲しがるが足早に部屋に戻る。数日そうしていると欲しがらなくなってそれはそれで寂しいものがあった。
でも、スキンシップを繰り返せば、鈍い自分でもおかしいことに気づく。腹は異様に膨らんでいるが背中を撫でるとゴリゴリとした背骨を感じることができた。
母に訴えて病院に連れて行ってもらう。
腹水。お腹に水が溜まっていた。
がんが色んなところに転移していて手の施しようがないと先生は言ったという。お腹の水を抜いたちくわはずいぶんスマートになっていた。
いつ死ぬかわからない。今のうちに好きなものを食べさせてあげてください。
先生の言葉通りやめていたおやつを好きなだけあげる。それでも1日に1本までと決めている。おやつだけじゃなくてごはんも食べてもらわないといけないからだ。
病院でもらった薬はごはんに混ぜても残してしまう。無理やり飲ますこともできなかった。
お腹が少しずつ膨らんできた頃、両親は同窓会のため家を3日程開けることになった。
腹が膨れているから水を抜きに行かないと主張したがまだ大丈夫と言われちくわと自分だけで過ごすことになった。仕事に行く前にごはんを皿に入れて、トイレを掃除する。帰ってきたらごはんを食べているか確認してごはんを入れてあげる。トイレはちゃんとおしっこ、うんこをしてるか確認して掃除する。母はこれを毎日一人でやっていた。
自分の部屋に戻っても気になって降りてちくわの姿を探す。ちくわはいつも畳のある仏壇の横に寝そべってごはんとトイレ以外はそこから動かなくなっていた。
12月に入って自分も体調を崩し咳が止まらなくなり仕事を休みがちになっていた頃、ちくわはゼイゼイと息をしてストーブの前の椅子にいた。この季節はここが定位置なのだ。お腹の水は抜いたがまた溜まってきている。
その時は唐突に訪れた。母から呼ばれ部屋から降りた自分の前には息のない亡骸があった。
12月を数日残してのことでちくわは新年を迎えることができなかった。
新年を迎え、起きてリビングルームに入るとストーブと椅子がある。
そこにはもうちくわはいない。
母は寂しそうに妹からもらった大人の塗り絵に一心不乱に色鉛筆を走らせている。
母に声をかけると仕事のために家を飛び出した。
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