一章 誘い

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「悪魔シールかぁ……」僕は千之介のようにパニクリマンシールをたくさん持つことはできないのだろうな。 千之介と僕とでは何かが根本的に違う。 千之介はきっとパニクリマンシールを上手に売り買いして、コレクションを増やしているんだ。 僕と千之介ではパニクリマンシールの見ているところが違うのだと思った。 「零二(れいじ)、可哀想だからダブったシールを一枚あげるよ」千之助はツンツンに尖らせた髪の毛を親指と人差指でちょっと触ると、アルバムの中から情けない悪魔が描かれたシールを一枚取り出した。 「ありがとう」僕は情けない気持ちを悪魔シールに重ねた。 とは言え、パニクリマンシールが一枚増えたことを嬉しく思った。 「悪魔シール……」僕は悪魔シールだけが増えていくことに何とも言えない気持ちになった。 二十円……。 あと十円あれば、パニクリマンチョコが一つ買える。 パニクリマンチョコが買えれば、チョコについてくるパニクリマンシールがキラキラシールの可能性だってある。 あと十円……。 僕は地面を見た。 しかし、十円がそう都合良く落ちていることはなかった。 「じゃぁ、俺はそろそろ帰るぜ。帰ってファミカンやらなきゃ」千之介はアルバムを大事そうに抱えると、自転車に跨った。 千之介は最近流行り出したファミリーカンバセーション、略してファミカンも持っている。 ファミカンは家庭用のゲームだ。 ファミカンか、いいな……。僕もやりたい……。 僕にとってはパニクリマンシールは経済力の証だった。 「僕も青馬(せいま)のうちに行ってファミカンやらせてもらおっと」僕は精一杯の強がりを言うと、千之介が自転車で去って行くのを見届けた。 「よぉ、僕。ポン菓子買っていかないかい?」ポン菓子屋のおやじがいつの間にか隣に来て言った。 「いや、僕お金ないから」僕はポン菓子屋のおやじに言った。 「お母さんに言って、お金もらって来なよ。おじさんはまだここにいるから」ポン菓子屋のおやじは口元を上げた。
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