一章 誘い

3/17
前へ
/150ページ
次へ
お金か……。 僕のお小遣いは月に三百円。 世間的にはたぶん少ない方。 もらっている子は月に千円ももらっている。 うちの家庭事情からすれば、三百円もらえるだけでもありがたい。 でも、僕には欲しいものばかり。 そのどれもが僕が逆立ちしても買えない。 唯一買えるのが、パニクリマンチョコぐらい。 それでもパニクリマンチョコを月に十個買ったらお小遣いが全部無くなる。 お小遣いが全部無くなれば夏祭りにも行けない。 僕は世の中の世知辛さを思い知った。 青馬のうちに行くか……。 僕は仲良くしている青馬にファミカンをやらせてもらう魂胆だった。 ポン菓子屋のおやじが横目で見ながら僕に手を振った。 僕はおやじを無視して青馬のうちまで自転車を漕いだ。 僕はたんぽぽヶ丘団地に住んでいる。 青馬も同じ。 たんぽぽヶ丘団地には僕の同級生がたくさん住んでいる。 家族構成は皆似たようなもの。 たぶん経済状況も……。 それでも、千之介のように裕福そうに見える家庭もある。 僕は自転車で舗道を走り抜けた。 左手にたんぽぽヶ丘公園が見える。 青馬は最近親にファミカンを買ってもらって、毎日ファミカン三昧の日々だ。 僕は青馬のファミカンの取り付けを手伝ったのだから、青馬は僕に少しは恩があるはず。 青馬のうちの前で自転車から降りた。 あと九年後にはミアプラキドゥス星人の大予言により、恐怖の大王が地球に降って来るって言ってたっけ?恐怖の大王によって地球は滅亡するらしい。 地球が滅亡するならパニクリマンシールを何枚持っていようが関係無い。 僕はミアプラキドゥス星人の大予言を言い訳にして、パニクリマンシールが欲しい気持ちを無理やり抑え込んだ。 階段を上り、青馬のうちのチャイムを鳴らした。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加