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一章 誘い
私は病気をしたせいか、この物語に登場する転入生が本当に実在したのかどうかが今でははっきりとしません。
しかし、私はこの転入生が本当に実在したと思えるぐらい、当時の思い出が今でもありありと浮かびます。
もしかしたら、この転入生は私の記憶の中で友人たちの集合体が一人の人物になっているのかもしれません。
いずれにしても、これは私の記憶にある物語です。
* * *
「ミラクルゼウスは一枚四〇〇円だよ」千之介はアルバムを見せてくれた。
僕は千之介のアルバムを覗き込んだ。
色とりどりのシールがアルバムに収められている。
これはパニクリマンシール。
僕たちがお小遣いを手にして必死で買い集める宝物。
千之介はどうやってこれだけたくさんのパニクリマンシールを集めたのだろう?
「ミラクルゼウス、もう少し安くならない?七〇円とか」僕は千之介に聞いた。
「だめだめ。ミラクルゼウスは一番価値があるんだ。四〇〇円よりも安くはできない」千之介は僕の目の前でアルバムをパタンと閉じた。
近くでポン菓子の甘い香りがする。
僕には手に入れられないものばかり。
ポン菓子もミラクルゼウスも……。
僕はポケットをまさぐった。十円玉が二枚。
これじゃ、ミラクルゼウスどころか、パニクリマンチョコ一つも買えない。
「千之介、二十円で買えるシールはある?」僕は千之介に聞いた。
「二十円?二十円だったら悪魔シールだな」千之介は僕の目の前でまたアルバムを開いた。
アルバムには悪魔が描かれたシールがぎっしりと収まっていた。
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