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「腹へった・・・腹へった・・・」
野犬のセルポは、フラフラしながら山野を歩き続けた。
セルポは、名犬とうたわれた猟犬『ポチ』を父として産まれた、ポインターの『元』猟犬だ。
セルポが『元』猟犬なのは、理由がある。
セルポが猟犬だった頃のパートナーは、冷血無比なハンターだった。
有害鳥獣駆除どころか、他のまったく罪も無き野生鳥獣を悉く殺戮していく事に快感を覚え、殺害した獲物におどけてもて遊ぶ自撮りをSNSにアップしては、顰蹙をかって炎上するような奴だったのだ。
そんな冷酷なハンターにパートナーにされたから、たまったものではなかった。
「ごるぁ!!真面目に獲物を追え!!」
「また獲物を見失ったら保健所に捨てるからな!!」
猟犬のセルポはパートナーに、事あるごとに殴り蹴り飛ばし、酷い時には棒で叩きのめした。
パートナーにはセルポにはろくに餌を与えなかったので、常時空腹で腹まわりはガリガリに痩せこけ、あざだらけの身体を堪えてフラフラ歩いていた。
無理もなかった。
パートナーは、猟犬を『物』としてしか扱わなかったからだ。
猟期が終わったり、言うことを聞かないと直ぐに保健所に持っていって捨てに行くように、猟犬達を使い捨ててきたからだ。
そんな奴がパートナーである運の悪さを悔やみながら、セルポは毎度泣く泣く有害鳥獣の捕獲の仕事をこなしていた。
・・・何でこいつらが殺されなければならないんだ・・・?
・・・まるで、こいつらは俺じゃないか・・・?
・・・結局、人間の勝手な都合じゃないか・・・
・・・ごめんよ、鳥獣達・・・
・・・もうやだ・・・狩猟なんて・・・!!
事件が起きた。というか、セルポは事件を起こした。
ううううう~~~~~・・・!!
ううううう~~~~~・・・!!
「あ?俺はおめえのパートナーだぞ?俺はおめえにしてやった事の恩を仇で返すつもりか?!」
ある日の事だった。猟犬のセルポ遂に、冷酷なハンターへの怒りの感情が爆ぜたのだ。
ろくに餌は与えず、用が無ければ、汚いごみ溜めに繋いでほったらかし。
些細な事や衝動的に蹴飛ばして来る。
身体はガリガリのノミだらけ、全身アザだらけの身体には、蓄積された憤怒のオーラが吹き出したという。
牙を剥き出し、深い唸り声をあげ、パートナーに襲いかかった。
う~~~~~~!!がふーーっ!!
がぶっ!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
セルポはパートナーを噛みつき、噛み砕き、爪で掻ききり、憎々しいパートナーを血祭りにあげ重傷を負わせた。
・・・俺は・・・いったい何してるんだ・・・!!
パートナーの血でまみれたセルポが我にかえって気が付くと、己のしでかした事に身の毛がよだち震えが止まらなくなり、取り乱してその場を逃げた。
追ってきた、他のハンターや通報で駆けつけた警察や保健所職員をまいて、逃げて逃げ逃げまくった・・・
今では、『元』猟犬のセルポは人間達に追われる身。
流離いの日々を過ごしている。
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