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千恵をベッドにセッティングし、皿洗いを済ませ、ようやくひとりきりの安心の時間を得る。スマホを触るのも数時間ぶりだった。家族がひとり増えるだけでこんなにも賑やかしい。千恵を可愛いと思う感情の裏で、果たして自分の忍耐力はこの子が成人するまで持つだろうかと不安になる。
届いていた一通のメッセージは、中学の同級生、五十鈴から同窓会の知らせだった。そっけない文面からして、彼を中心に盛り上げているというよりは、中心にならざるを得ないという感じだ。当時から生徒会や学級委員、クラブのキャプテンなどを務めていた。大人になっても彼はその呪縛から抜けられていないことにほくそ笑む。
同窓会か。しばらく考え込んでいると、肩から秋穂の顔が生えた。湯気が頬にあたり、知宏は素早く上体をねじった。
「もう出たの」
ひとりの時間が終わってしまった。壁の時計を見上げ、「そんなに短かった?」と秋穂は首を傾げる。
「子どもができるとさ、なんでも行動早くなるよね。あれもこれも秒単位で動かないと、その間になにが起こるかわかんない。子育てってえ、一寸先は闇だね」
と言いながら、隣に腰を下ろす。
「そうだな。闇だな。闇は怖い」
「やる気のない返事」
一発で見破り、軽く睨んでみせる。
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