悪魔事件

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 玄関を出た瞬間、複数のフラッシュが知宏ともひろを襲った。  俯いてるお陰で目は痛くない。無心で鉄の輪で繋がれた自分の両の手首を見ていた。白い光が知宏の顔や、シャツに飛び散った真っ赤な血飛沫を捉える。 「顔を上げるな」隣で連行する刑事が囁いた。上手に知宏と目を合わさないように、表向きは実直に職務を遂行するふりをして、彼はこんなことを言った。「奴らは都合のいい画を狙ってる。言うとおりにしてやる必要はない」  妻と、1歳にも満たないわが子、その他関係者を惨殺した男。閑静な住宅街で起きたセンセーショナルな殺人事件。報道陣の背後には野次馬がまるで知宏のファンのように詰めかけている。  血が乾いてごわつく唇を釣り上げ、光の中へ、知宏は微笑んだ。報道陣から一斉に非難とも驚嘆ともつかぬどよめきが上がった。  悪魔。    人は知宏をそう呼んだ。週刊誌や情報番組で散々話題にされ、いつしか「悪魔事件」として定着していくことになる。
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