最終章 神のみぞ知る未来

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「彼女はもう何年もいないな」 「…え」 「目下片想い継続中だからね」 「!」 やっと言葉を発したかと思ったら不意に私に向けた先生の視線が熱っぽかった。 「僕はね、もう何年もその片想いの彼女一筋だから」 「……」 「きっと彼女は一生僕の気持ちには応えてくれないと思うけどね。それでもいいと思うほどに愛しているんだ」 「…っ」 先生の告白をどう受け止めたらいいのか迷ったその時、ひときわ強い若葉の風が吹いた。 その風はまるで私の心の中を荒々しく侵食するかのような強いものだった。 (それは……一体) 先生の心を鷲掴みにして離さないというその片想いの相手は誰なのだろうと思う気持ちとひょっとして私は先生のことが──なんて不確かな感情の間で揺れ動いている。 だけど前々からじわじわと私の心の中に競り上がって来ている感情に名前がつくとしたらならそれはきっと──…… 隆壱様に捧げた操が揺らぐほどの感情(こい)。 気がつき始めたその気持ちを持て余すように私と先生は木々を抜ける若い風を無言で受け続ける。 (私と先生の関係はこれからどうなるのかしら) それは神のみぞ知ることなのだろうかと思いながらそっと目を瞑った。 エニグマの娘(終)
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