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彼とは長い付き合いだけれどこれ程までの怒気を含んだオーラを感じたのは初めての事だったのかも知れない。
「おまえがこの小田桐の家の事を熟知しているのは解っている。解っている上で今の発言を俺に対してぶつけるのか」
「……」
「まぁいい。昔馴染みのよしみで一度だけは見逃す。俺だって数少ない味方を失うのは本意ではない。今回の件は美織の純潔と引き換えに見逃してやろう」
「……え」
(今、なんて)
「もういい。去れ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!隆壱さん、今のはどういう意味だ」
「何がだ」
「先刻の…僕が美織ちゃんに手を出した件を見逃す代わりに…なんだって」
「昨夜俺は美織を抱いた」
「!」
「美織はもう処女ではない」
「…なん、だって……そんな、美織ちゃんは…今までずっと」
(僕が迫った時はまだ男を知らなかった──という事なのか?!)
「どうした」
「だって…そんな、もうとっくに…」
「おまえは俺をなんだと思っている。本当ならおまえの件が無かったら美織は俺と結婚するまでその純潔を守っていた筈だったんだぞ」
「!」
「だがおまえの性急な行動に恐れを抱いた美織は俺への嘘偽りない気持ちを証明するのに必死になった」
「……」
「だから俺は美織を安心させるという意味で美織の強請りをきいたのだ」
「……」
「──まぁ、思いがけずに美織の本音を知れたのはよかったが。そういった事も含めて今回は寛大な処置にしてやるのだ。美織に感謝しろ」
「……」
(そんな…まさか)
あの隆壱さんがずっと寝室を共にしている美織ちゃんに対して最後の一線を超えてはいなかっただなんて事……
(あり得ない!)
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