イタズラしても怒られない魔法

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イタズラしても怒られない魔法

「おい、じーさん。大丈夫か?」  俺は高校の帰りに道で倒れていた小柄なじーさんを助けた。  起き上がらせたじーさんはピンピンしていて 「わしは、美少年の願いを叶える旅をしておる魔法使いじゃ」とか言い出した。  メルヘンなじーさん助けちまった。 「ふぉっふぉっふぉっ。 おぬし、まあまあの美形じゃな。 ちぃと背が大きすぎるがの。 わしはもっと背が低い少年がタイプじゃ。 まあよい、助けてくれたお礼にお前の願いを叶えてやろう。 このじじいに申してみよ。」 「は? 願い?」 「よこしまな願いでも良いのじゃよ。」 じーさんが口の左側を上げてニヤリとした。 「よこしまな願いか……。 いや、それよりじーさんケガはないのか?」 「ふぉっふぉっふぉ。 さっき倒れていたのは演技じゃ。」 「はあ? 演技だって?」 「心優しき美少年が助けてくれるまで、待っていたのじゃ。 途中、おばさんが助けてくれようとしたがの、断った。」 「何の為にそんなことを。」 「ただの趣味じゃ。」 「はあー。なんだ、変な遊びすんなよー。」 俺は溜め息をついた。 「願いごとは無いのかの?」 「願いごとー?」 「何でもいいんじゃよ。 好きな男を手玉に取る魔法もあるぞよ。」 「じーさん……俺が男が好きだって分かるのか?」 「ふぉっふぉっふぉっ。 だてに美少年好きを千年もやっていないぞよ。」 「千年? そんなに長生きしてるのか?」 「ふぉっふぉっふぉっ。 これでも魔法使いとしては新米な方じゃ。 さあて、願いは何にする?」 「そうだな。どうしよう。」 「好きな男を、20センチくらいの着せかえ人形サイズにして、イタズラしても怒られない魔法はどうじゃ?  何もしても受け入れてもらえるぞよ。」 「何だよ、それ。 もう決まってたんじゃん。 じーさん、普段そんなことして遊んでんの? やべえ趣味してんな。 ……イタズラしても怒られないのか……。 それにする!」 「よし、決まりじゃな。おぬしにこれをやろう。」 じーさんが俺にコンビニの袋を渡してきた。  中には、一食分ずつに分けられたふりかけが入っていた。 「わしの手作りのふりかけじゃ。」 「ほんと、ザ・手作りって感じのふりかけだな。知らない人に手作りの食べ物もらっても、食べるの勇気いるんだけど。」 「なんじゃと……。わしの彼氏以外は、なかなか食べてくれないのは、そのせいかの……。」 「じーさん、彼氏いるのか。これ、うまいって言ってたか? 家帰ったら食べてみるよ。」 「お前が食べたらいかんぞ。これは体が小さくなるアイテムじゃ。」 「これが……。」 「そうじゃ、わしの魔力が込められておる。 おぬしが好きな男に食べてもらえ。」 「……分かった。やってみる。」 「元に戻したい時はこっちのブルーベリージャムじゃ。」 じーさんはビンに入ったジャムをよこした。 「何で、小さくなるときはふりかけで、元に戻るときはジャムなんだ?」 「わしは料理が趣味での。 たまたまふりかけとジャムが作りたかっただけじゃ。 ブルーベリーにしたのは、BLUEを略すとBLになるからじゃ。」 「そんな理由か。」 「ではな。検討を祈るぞよ。さらばじゃ。」 そう言ってじーさんはぴゅーっと走って消えてった。 「じーさん、走るの早いな。健康で何よりだ。さて、このふりかけ、あいつに食べてもらえるかな。」 ☆ 次の日の朝、学校で。 「ミナト、明日から連休だな。 今日からうちで一緒に課題やらないか? うちの両親、旅行に行ってるから騒いでも大丈夫だし、泊まりに来ないか。」 「いいね。そうするよ。カズサの家久しぶりだな」  よし、俺の好きな男・ミナトをうちに誘うことに成功したぞ。  夕飯はじーさんにもらったふりかけを食べさせる為に、ご飯をタイマーで炊飯予約してきた。  ミナトは穏やかで優しい。  いつもニコニコ笑っている。  髪の毛サラサラの美少年だ。  俺はこのミナトのことが、この学校を受験する時から好きだった。  推薦入試の面接の日に見かけて、ひとめ惚れしたんだ。  妖精がいると思った。  なんとか名前を知りたくて、上履きのかかとに書いてあった名字をチェックしたのを覚えている。  入学式の日にミナトの姿を見つけて、しかも同じクラスで三年間クラス替えなしだと知った時は、嬉しくて天にものぼる気持ちだった。  俺カズサとミナトは共に服飾科の高校三年生で同級生だ。  学年で男は俺らしかいない。  服飾科は簡単に言うと、服のデザインを考えたり、服をミシンで作ったりする学科だ。  さっき、ミナトにうちでやろうと言ったのは服のデザイン画を描く課題だ。  ミナトが提案してきた。 「ファッションショー用の採寸もカズサの家でやろうよ。」 「ああ、いいよ。」  ファッションショーは秋の文化祭で行われるイベントだ。  自分の作りたい服に合うモデルをクラスメイトから選んで、その人の体に合わせて、服を作る。  俺はミナトを、ミナトは俺をモデルに選んだ。  最近少し太ってきちゃったから、ミナトにサイズ測られるの恥ずかしいな。  それからミナトを着せかえ人形サイズにした後は何して遊ぼうかな。楽しみ。 「何ニヤニヤしてるの?」 「えっ。あっ、これはっ。」  顔がニヤニヤしてるのをミナトに見られてしまった。 「いやらしいこと、考えてた?」 「んなっ。」 「フッ、図星だね。カズサは変態だな。」 「へ、変態って……。優しい顔してSだよなあ。」 「そおかな?」  このSなミナトにイタズラしても怒られないなら、何をしようかな。  授業中、ずっとそのことばかり考えてた。 ☆ 放課後、カズサの家。 ピンポーン。 「おまたせ。」  ミナトが荷物を自宅に取りに行って、普段着に着がえてからうちに来てくれた。 「いらっしゃい。」 「遅くなってごめんね。」 「先に課題やってから夕飯食べるか?」 「うん。」  二人で俺の部屋に入った。  テーブルの上でお互いにデザイン画を描く。 「最近はどういうイメージで服考えてるんだ?」 「かっこいいアイドルグループ見つけて、そのセンターの男の子をイメージして描いてるよ。」 「へえ。ミナトがかっこいいって思うアイドルって誰?」  一体どんな奴なんだ。ジェラシーだな。 「この人。この真ん中の。」 とミナトはスマホの画面を見せてくれた。 「こいつ?」 「そう、かっこいいでしょ。スタイルもいいし。この人に着せたい服がたくさん思い付いてくるんだ。」 「ふーん。」  つまんね。俺のが、絶対イイ男だっつーの。 「カズサは? どういう服描いてるの?」 「俺はねぇ……。」   俺が描いてるのは、ミナトに着せたい服だよ。  ミナトがもしフィギュアスケート選手だったら、バンドマンだったら、 勇者と冒険の旅に出たら、こんな服を着てほしいって思って描いてる。  バンドは俺がボーカルで、ミナトはベース。冒険の旅は、俺が勇者で、ミナトは召喚士っていう空想をしながら描いてる。 「カズサ?」 「俺のは、ひ、ひみつだよ!」 「えー、オレの教えたのにー。」 「いいんだよ。恥ずかしいから言わない!」 「しょうがないなあ、カズサは。 そうだ、そろそろ採寸しない? ご飯食べる前の方がいいよね。」 「あっ、そうだな。」 「裸になってよ。オレも脱ぐから。」 「えっ、Tシャツの上からでよくないか? 俺最近少し太ってきちゃったし、恥ずかしいや。」 「だめ。脱いで。ちゃんと測りたいんだ。」  お互いパンツ一丁になって、服を作るのに必要な採寸を測っていった。 「ミナトは腹出てたりしないんだな。」 「姿勢を正して、体型を維持できるように努めているからね。それに食べ過ぎたりしないように気を付けてる。」 ミナトは痩せている。肌に浮き出た青い血管を指でなぞりたくなった。 「じゃあ、次は俺の採寸だな。」 「うん。測るね。」 「ひゃおっ。」 メジャーが乳首にあたって、ひんやりとした。 「あ、ごめんごめん。感じちゃった?」 「今のわざとじゃね?」 「フフッ。そんなことないよ。 カズサ、体大きくなったんじゃない?」 「えっ、そうかな。最近、筋トレ始めたんだ。」 「うーん。それ、ファッションショーが終わってからじゃだめかな? 鍛えすぎて筋肉で服が入らなくなったら困るよ。」 「あ、そうだよな。考えてなかった。」 「まったく……。みんな、太らない様に気を付けてるんだよ。」  高校生の太りやすい時期にダイエットをしなくちゃいけないから、モデルの女子生徒達は大変だ。 「ああ、ごめん。」 「個人的には、筋肉質な体は好きなんだけどね。」  そう言ってミナトが、俺の背後に周り後ろから抱きしめてきた。 「えっ、ミナト?」 「カズサ……。オレこと、好きなんだろ?」 「んなぁっ……!」 気づいてたのか。 ミナトが俺を振り向かせ、キスをしてきた。 「ん〜っ」 俺のファーストキス……。 「……ちょー、待って! 舌入れるな!」 「やだ。」 その瞬間、ミナトが俺の口の中に指で何かを押し込んできた。 「んぐぐ?」 海苔とおかかの味がした瞬間に、視界がぼやけていくのを感じた。 ☆ 「カズサ、起きて起きて。」 「ハッ! ここはどこだ?」 「カズサの部屋だよ。」 「ミナト! 何で巨大化してるんだ? そして何で俺はスッポンポンなんだ?」 俺の視界いっぱいにミナトの顔が見える。 「クスッ。カズサの体が小さくなったんだよ。パンツより小さくなったから、脱げちゃったんだよね。 風邪引かないようにオレのハンカチをかけておいたんだけど、寒くない?」 「寒くない、大丈夫だ。まさか、さっき俺の口の中に突っ込んだのって……。」 「体が小さくなるふりかけだよ。 ここに来る前に、知らないおじいさんが道に迷ってて、道案内したらくれたの。」 「美少年好きの魔法使いの?」 「そうそう、その人。カズサも会ったの?」 「ああ、そのふりかけ俺も貰って、夕飯の時に食べさせるつもりだった。」 「フフッ。カズサが先に食べちゃったね。」 「俺に何する気だ?」 「さあね。どんなことしてほしい?」  ミナトの笑顔が怖い。どアップ過ぎるし。 「うう〜、まさかもう俺が寝てる間に何かしたんじゃ……。」 「してほしかったの?」 「うっ……。なんか嬉しいような恥ずかしいような……ミナトが俺にイタズラしようと思ってたなんて……。」 「カズサもオレにしようと思ってたんだよね?」 「うっ……そ、そうだ。」 「今日はおじいさんから着せかえ人形の服いっぱいもらったから、それを着がえさせて遊ぼっか。」 「人形の服もらったのか? 俺の時よりサービスいいな……。大丈夫か? じーさんに変なことされてないか?」 「ふりかけとブルーベリージャムと服をもらっただけだよ。」 「ならいいんだが。」 「お互い両思いだったんだよね?  あのふりかけ、好きな男に使えって言われてたから。 安心したよ。好きだよ、カズサ。」 「ミナト。お、俺も大好きだ。」 「ありがと。」  こうして俺とミナトは、お互い両思いだったことがわかり、ふりかけを順番こに食べたり、ブルーベリージャムをなめさせたり、二人同時に食べたりして連休中いろいろ試して遊んですごした。 おしまい。
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