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数学塾にて
二枚目のメッセージを見せられて、背中がひんやりした。瞬時にゾクッとするのとは違う。じんわりと嫌な感じがしたのだ。関わり合いになりたくない、というような。
それは、先程のメッセージとは打って変わって、脅迫文だったからだ。けれど、なんとも緊張感のない文章だ。ユウリが写し取ったからか?いや、実感が湧かないからだ。
【******(鏡の世界)へ入ってはならない。もし、今度、侵入すれば、******(私たちの世界)に生まれる予定の命をこちらにもらい受ける】
ユウリは一通り話し終えた後に聞いてきた。
「どうしたらいい?」
ユウリは漆黒の瞳を真っ直ぐに、俺に向けてくる。年上の俺でも、見返すことをためらってしまうような圧力がある。ユウリ自身は無意識だろうけど。持って生まれたものなんだろうな。
「どうって、相手の言う通りにするしかないんじゃないか?」
「もう、あの場所に行かないってこと?」
「そりゃそうだ」
俺が答えると、ユウリはガックリ肩を落とした。
「一枚目のメッセージが来た後に香津と相談して、鏡の世界に私たちのメモを置くことにしたの。この場所は、私たちにとって非常に大事な場所で重要だから、今まで通り使わせて下さいって」
「一枚目のメッセージで『入るな』と言われているのに、入ったのか?」
つい声が大きくなった。
「だって、他にこちらの主張を伝える方法が思いつかなくって」
ユウリも俺につられて必死になる。
一瞬、二人が沈黙すると、外の蝉の声がけたたましく聞こえてきた。
俺は口からフーッと息を出した。現実の世界なら、いくらなんでも考えが足りないんじゃないか?と意見するところだ。でも、中学生の判断って、こんなものだろうか。
いや、そもそも俺達は何の話をしているんだろう?
ユウリは俺の胸の内など知る由もない。
「私達のメモを読んだと思って良いのかしら?」
「どちらとも取れる。メモを読んで、尚かつ脅してきたのか。メモ云々じゃなく、再びその場所を訪れたから脅してきたのか」
ユウリは俺を見ているようで、遠くを見るような目をした。
なんだ?その場所でも見えるのか?
俺は構わず言った。
「もう入るな」
「でも」
ユウリはまだ未練があるらしい。
俺は強い口調で言った。
「何か起こってからでは遅いんだ。入るな」
ユウリが俺を凝視しているのを感じた。でも、わざと目を合わせなかった。負けてしまうから。
俺はそのまま目を合わせずに、トドメの一言を言った。
「何か起こってしまってからでは、それこそ、対処の仕方がわからない」
ユウリの気持ちが折れた気配がした。
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