朝倉編

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朝倉編

朝倉の股間を見た女の第一声は大体悲鳴だ。 それも恐怖や怯えの混じったもの。 青ざめた彼女たちの台詞は決まってこうだ。 「それは病気なの?」 朝倉弦太(あさくらげんた)は、とある山間の集落の中でも圧倒的な権力を握る朝倉家に生まれた。 コンビニや病院など大きな施設のない人里離れた僻地で、次期当主という決められたレールの元厳しく育てられた朝倉だったがある日突然当主であった父が他界。 朝倉は年若にして朝倉家を引き継ぐ事になった。 朝倉家の最大の特徴は、その血筋の男性全てが陰茎重複症である事だ。 陰茎重複症とはつまり、通常なら一本しかない陰茎が二本ある事である。 亡くなった父はもちろん、その祖父から先代にあたるまで二本の陰茎を持って生まれるのが朝倉家男の血統なのだという。 当然、朝倉自身も生まれつき二本の陰茎を持っている。 なぜ朝倉家の男がそんな身体に生まれるのか理由や理屈はさっぱりわからないが、恐らく血筋を絶やさない為の強い遺伝か何かなのだろう。 そしてその異質な身体こそが朝倉家の絶対的な権威の象徴であり村人からの信仰の対象となっているわけだ。 今時、人が神の使いのように崇められるなんて時代錯誤もいいところだと朝倉自身も痛感している。 しかし、朝倉家の存在があるからこそ村は未だ過疎化せず昔と同じまま平穏を保っているのは事実だ。 特に高齢者が多いこの集落では朝倉がいるだけで安心して暮らしていけると言う老人が多いため、朝倉は村を離れられないでいた。 しかし、朝倉は全くもって普通の人間だ。 神秘的な力や能力があるわけではない。 また陰茎重複症という身体ではあるが、生活に支障をきたす事はなく、むしろ健康そのものだ。 それに朝倉はまだ20代後半、欲望や本能も当然ある。 武骨だが父親譲りの容姿と体躯で田舎暮らしでも女性を惹き付ける事はできていた。 しかし、ベッドにもつれ込むまではいいのだが、朝倉の身体を見た彼女達の反応は畏怖そのものだった。 それは朝倉の股間が普通ではないから。 「病気ではないか」「私には手に負えない」「他にもっといい人がいると思う」 彼女たちの言葉はやんわりとしていたが、朝倉にはわかっていた。 それは奇異なものを前にした拒絶の眼差しである事を。 そんなある日、朝倉に『:淫花廓(いんかかく)』という高級廓を紹介してくれるという話が舞い込んできた。 そこで働くのは男娼という男ばかりの廓らしいのだが、これが中々いいらしい。 正直、女のあの怯えた表情にはうんざりしていたところだ。 それに、持て余した性を自分で処理するのも飽きていた。 男を抱いた事はないし、性的興奮を感じる事ができるかの自信はない。 まぁでも、口淫させている間目でもつぶっていれば何とかイけるだろう。 勃たなければ勃たないで酒でも煽っていればいい。 男でも女でも、この身体を前にした村人以外の人間の反応などどれも変わらないのだから。 朝倉はそれくらいのやけくそな気持ちで淫花廓を訪れる事を決めたのだった。
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