16人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
黒幕
それから半年後。
首相官邸には三人の男が集っていた。
一人は総理、一人は財務省長、そして最後の一人は燕尾服の男である。白いテーブルクロスがかけられた机の上で向き合う。
「初めての試みだが、首尾よくやってくれたようだね」
「時を越えるのと医療は僕の専売特許ですからね」
「流石としか言いようがない。君のような大天使と契約をした甲斐があったというものだ、ザラキエル君」
「いえいえ、総理の国を思う心が僕を呼んだのです」
ザラキエルと呼ばれた燕尾服の男は掌を差し出し、オブジェを総理に提示した。
「この任務一件につき一千万円の国庫を節約できた訳ですから」
するとザラキエルはオブジェの端の蓋をぱかっと開けて、その中の液体、つまり被験者の血液をとろとろとテーブルの上に零した。血液はじわりと広がり白いテーブルクロスに赤い日の丸が描かれた。
「この活動を広めれば、国の経済を護れますね」
「ああ、高騰する医療費を抑制するのは政府の大事な使命だ。だが新薬を承認しなければ支持が低下するのは明白だ」
そう言って総理と省長は顔を見合わせ、ほくそ笑んだ。
「要は患者が高価な治療を受けなければいい話だからな。君は忙しくなるが大丈夫かね?」
「そりゃあもう。だって家族と国を思って医療を拒否した優し~い高梨さんは天国に来ましたんで。今や僕の部下ですよ」
「そうか、君は強欲な魂を浄化することで部下が増えるメリットもあるのか。まさにウィン・ウィンだな」
そこで総理は不意に視線を落とす。
「だがこんな計画を企てた私は死後、どんな扱いを受けることになるのかな?」
総理がおそるおそる尋ねると、ザラキエルはにっと白い歯を見せた。
「大丈夫です、御二人のような愛国心に満ちた立派な政治家には、ちゃんと天国への切符が用意されていますよ。ポストは僕が作っておきます」
その言葉に総理と省庁は破顔した。
「はっ、そうか、天国に天下りのパイプが出来て幸いだ!」
「本当ですね総理、これで老後だけでなく死後も安心だ!」
そして官邸には三人の高笑いが響き渡った――
【了】
最初のコメントを投稿しよう!