黒幕

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黒幕

 それから半年後。  首相官邸には三人の男が集っていた。  一人は総理、一人は財務省長、そして最後の一人は燕尾服の男である。白いテーブルクロスがかけられた机の上で向き合う。 「初めての試みだが、首尾よくやってくれたようだね」 「時を越えるのと医療は僕の専売特許ですからね」 「流石としか言いようがない。君のような大天使と契約をした甲斐があったというものだ、ザラキエル君」 「いえいえ、総理の国を思う心が僕を呼んだのです」  ザラキエルと呼ばれた燕尾服の男は掌を差し出し、オブジェを総理に提示した。 「この任務一件につき一千万円の国庫を節約できた訳ですから」  するとザラキエルはオブジェの端の蓋をぱかっと開けて、その中の液体、つまり被験者の血液をとろとろとテーブルの上に零した。血液はじわりと広がり白いテーブルクロスに赤い日の丸が描かれた。 「この活動を広めれば、国の経済を護れますね」 「ああ、高騰する医療費を抑制するのは政府の大事な使命だ。だが新薬を承認しなければ支持が低下するのは明白だ」  そう言って総理と省長は顔を見合わせ、ほくそ笑んだ。 「要は患者が高価な治療を受けなければいい話だからな。君は忙しくなるが大丈夫かね?」 「そりゃあもう。だって家族と国を思って医療を拒否した優し~い高梨さんは天国に来ましたんで。今や僕の部下ですよ」 「そうか、君は強欲な魂を浄化することで部下が増えるメリットもあるのか。まさにウィン・ウィンだな」  そこで総理は不意に視線を落とす。 「だがこんな計画を企てた私は死後、どんな扱いを受けることになるのかな?」  総理がおそるおそる尋ねると、ザラキエルはにっと白い歯を見せた。 「大丈夫です、御二人のような愛国心に満ちた立派な政治家には、ちゃんと天国への切符が用意されていますよ。ポストは僕が作っておきます」  その言葉に総理と省庁は破顔した。 「はっ、そうか、天国に天下りのパイプが出来て幸いだ!」 「本当ですね総理、これで老後だけでなく死後も安心だ!」  そして官邸には三人の高笑いが響き渡った―― 【了】
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