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すると燕尾服の男はにやりと笑みを浮かべ高梨に告げる。
「ほう、そうですか。僕はあなたの寿命を知っていますし、いつ孫が生まれるかもね。もちろん、孫の顔を見ることは叶わなくもないですよ」
「どうやら医者の説明によると、俺の寿命は残り半年くらいだが、高額な薬を使えば、一年ほど生きられる可能性が高いということだ。せめてあと一年は……」
「ああ、その寿命、ずばり正解です! お金かければ長生きできますよ。しかも孫にも会えますよ!」
そう言って男は人指し指をぴんと立て、ぱっと明るい表情を見せた。
その確信に満ちた表情に、この男は何らかの理由で自分の寿命を削るために取引をけしかけたのだと高梨は感づいた。けれども直後、男は意図的に眉間に皺を寄せ、唇を尖らせてみせた。
「でもその治療、お金かかるんでしょう? お金、大切じゃないですか。高梨さんにとっては命よりも」
その言葉に高梨は後ろ指をさされた気になり、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「いや、日本は高額療養費で賄われるから高い治療を受けた方が得らしいぞ。だから俺は最善の治療を受けて意地でも長生きしてやる」
高梨は寿命を奪った張本人を睨みつけ言い放ったが、男は呆れた顔をして肩を竦め、ため息をついてみせた。
「はぁ、でも生きている間の一年、その治療をしたら医療費がいくらかかると思います? 薬価だけで一千万円、超えてるんですよ? そこに充てられるのは税金ってこと、ちゃんと分かっています?
この狭い国、日本にお住いの国民の皆様が頑張って稼いだ血税ですよ? 真っ赤な、ま~っかな血でできた税金ですよ?
それをあなたが今更、寿命をちょっとだけ伸ばすために使っちゃうんですか?」
「なんだよ、保険診療の医療を受けて、どこが悪いっていうんだよ!」
「よく考えてみてくださいよ、寿命を半年やそこら伸ばして一千万円も使っちゃったら、一日あたり五万円以上かかる計算ですよ? 高梨さんが売った命の金額に全然合わないでしょう?
ほら、高い薬って癌を壊すんじゃなくて、国を壊すんですよ。つまりね、あなたみたいな考えの人がこの国を壊してるんですよ。しかもそのツケ、あなたの愛する娘さんに跳ね返ってきますよ?
だからお金が大切な高梨さんなら、孫の顔を見るのは諦めて、大往生するのがオススメですよ」
「おっ、お前悪魔かよ……!」
声にならない震えた声で高梨は盾つく。だが燕尾服の男は肩を竦め、それからずいっと目を細めて答えた。
「ひどい言い分ですね、僕は決して悪魔ではないですよ。寧ろもっと善良で公平で正義感に溢れた存在ですよ」
気味悪いほどの猫なで声に高梨はぞっと寒気を覚えた。
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