令和元年

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「あっ、そうですか、やっぱりお金、大切なんですね。そしたらこういう選択肢もありますよ」  そういうと男は砂時計を持ち、掌の上でトンッ、とオブジェに振動を与えた。  深紅の血液が一滴、ぽとりと滴り落ちた  チャリン!  そして通帳の残高は996万円に増えた。 「どうですか、あなたが自分の命につけた対価は一日一万円でしたけど、クリアランスセールとして残りの寿命の引き換えもできますよ? あの時みたいに夢中で落としますか?」 「ひいい、やめてくれぇ~!」  高梨は足がガクガクと震え、その場に崩れ落ちた。けれども見下ろす男の視線は永久凍土のような冷たさと透明感を湛えていた。 「高梨さん、あなたの方が悪魔みたいな人間ですよ。命に余裕がある時は安く売り捌いたくせに、僅かな余命を取り戻すために使われるのが税金なら糸目をつけないなんて。  高梨さんなんですから、高いのは無しですよ?」 「ひでえ、人間のすることじゃねえ……」 「そうです僕、人間じゃないですよ? さあ、どうしますか高梨さん、あなたの選択肢は三つです。家族のために寿命を売るか、孫の顔見たさに貯蓄を使い果たすか、それとも……」 「どっちも選ぶわけないだろ! 俺は残りの人生を有意義に生きてやる、太く短く、それが俺の人生だっ! うわあああああああっ!!」  高梨が宵闇を仰いで絶叫すると、燕尾服の男はふっと目を細め背を向けて、高梨の元を去っていった。
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