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手を伸ばしオブジェを掴むと血液がゆらっと揺れ、まるで誘っているかのようだった。高梨はごくっと唾を飲み込み、そのオブジェを握ると、すっと持ち上げ、トン、と戻して振動を与えた。
ポタッ……。
深紅の血液が一粒、滴り落ちた。
チャリン……。
――音が、鳴った。
高梨はすかさず通帳に目を向ける。するとやはり新たな数字、「1」が数値の頭に加わっていた。どくんと心臓が跳ねた。
――よし、いける!
大金を手に入れた未来の自分の姿を想像する。庭つきの一軒家、妻と子供の笑顔……。
――これで俺は、しがない人生から抜け出せるんだ!
決心した高梨の手に力が入る。
トン、トン、トン……。
ポタッ、ポタッ、ポタッ……。
チャリン、チャリン、チャリン……。
通帳に記されている万の位の数字は2、3、4……と次第に増えてゆく。
――ひ、ひひっ、金だ、金が入るっ!
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