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第9章
何度もなんどもノックが聞こえて、千尋はそれで目を覚ました。
しかしノックの後には「お相手の方が来るというのに… 」などという言葉が聞こえてきて、千尋はまた現実から逃げるために、机に突っ伏して、眠りについた。
途中からは、また酷い悪夢を見るようになり、起きている間も、寝ている間も酷く辛くて。
でもこれが自分への罰だから。このままなんども寝て起きてを繰り返すうちに、目覚めたら地獄にいればいい。
気づけば窓の外からは光が漏れてきて、いつのまにか夜が明けたことを理解する。
「千尋様っ!!お相手の方がいらっしゃいましたよ!早く開けてくださいっ!!!
このまま一条の家に泥を塗る気ですか!?」
酷く切迫した声とともに、再びノックが鳴り出す。
…泥なら、もう塗っている。Ωで、無理矢理好きな相手と番って、妊娠もして。
しかし千尋に出てくるよう叫ぶ声が、ある瞬間、ピタリと止まった。
「わかりました。では窓から離れていてください。」
静寂の中で、ドアの外から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声で。
「け…か…?」
そんなわけがない。彼は昨日この家を出て行ったのだ。けれどその声を聞き間違えることなどあるだろうか。
混乱して、でもなにもできなくて、また千尋は眠りにつこうと机に身体をもたげる。
しかし、
"バリッ!ガシャッ!!"
それと同時に窓の外から大きな音がした。反射的に音の方を向くと、庭に面している窓が割れている。
その隙間から覗いた人物の姿に、千尋は息を飲んだ。
「お待たせして申し訳ありません、千尋様。」
「…?」
「ずっと一緒にいるために私にできることをしておりました。」
「…???」
どうして慶榎がここにいるのかわからずに、千尋は呆然と立ち尽くす。辞めたのではなかったのか。
ずっと一緒にいるということは、千尋の嫁ぎ先に執事として慶榎も同行するということだろうか。
彼を見つめ、説明を仰いだ。
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