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第1章
大きなベッドに背の高い箪笥、西洋から取り寄せた‘ぷらねたりうむ’の機械。
殺風景な広い部屋に、それ以外のものはない。
「ははっ、慶榎、そこはだめっ!」
擽ったそうに笑う、薄桃色の柔らかい頬。少し癖のある亜麻色の髪を、慶榎は丁寧に梳いていく。
「いけません千尋様。もう少しですからじっとしていてください。」
「それより慶榎、花札でもしないか?」
慶榎の言葉になど全く耳を傾けず、主人である千尋はタンスの引き出しの一つから花札の箱を取り、中身を散らした。
…後でこれらを片付けることも、きっと私なの仕事なのでしょうね。少しだけ毒づいて、
「…あと10分でお食事の時間です。そろそろ行かれませんと。」
言いながら、慶榎は千尋の白いうなじをゆるくこすった。
「えー…。
ひっ、やめろ、それは嫌だっ!」
気怠げな声を上げていた千尋が、いきなり四肢をばたつかせる。
いつものことだ。慶榎は華奢な千尋の身体を抑え込み、鉄製の首輪をガチャリとはめた。
…もう15だというのにいとも簡単に押さえつけることができてしまう。
その事実が、慶榎を不安にさせる。目をつけた誰かに、身体を強引に開かれたりしないだろうかと。
この世界は、Ωである千尋にとって非常に生きにくい。
だからせめて、無理やり番われることがないように。大切な彼が、幸せになれるように。
そう願いながら、慶榎は千尋の首に頑丈な枷に鍵をかける。
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