1143人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
第4章(過去編)
「こら千尋、焦らずゆっくり降りなさい。」
「はい、おとうさま。」
父の手は大きく、ふわりと千尋の頭を包む。千尋は父の方を振り返り、父の前に右手を差し出した。
馬車から降りれば、空は晴天。涼風に:秋桜(コスモス)が凪いでいる。外は少しだけ肌寒く、握り返された手のひらがじんわりと温かい。
「千尋は英語が上手だと先生が褒めていたぞ。最近勉学は楽しいか?」
「はい!じぶんのせかいがひろがるみたいで、学べば学ぶほどふかくはまっていくのです。」
「そうかー。まだ9つなのにもう学びの楽しさを知ったのか!きっとαだ。将来お前負けないように、私も頑張らないとな。」
父の言葉が嬉しくて、千尋はくしゃりと顔を緩ませる。あるふぁ、というのがなにかはよくわからなくても、父に褒められていることには変わりない。
「今日は千尋にプレゼントがあるんだ。」
「ぷれぜんと?」
「そう。あそこの建物に準備してあるよ。」
そう言って、千尋の父は少し先にある大きな建物を指差した。
「:冷泉(れいぜい)のおやしきに?」
あそこは、千尋の家と同じくらい有名な家柄のお屋敷だ。そんなところにプレゼントが?と千尋は父を見て首をかしげる。
「ああ。」
父がにっこりと笑う。
父からの贈り物。考えただけでわくわくして、千尋は心を躍らせたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!