となりのワタリ

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南浩介の日課は、隣の席のワタリを観察することだ。 同じクラスになる前からワタリのことは知っていた。いつも一人でいて、クールぶってるぼっちというのが第一印象。けれど誰にも媚びない姿勢は自分とは正反対で羨ましいと感じた。 しかし実際は少し違うということに最近気がついた。根暗でキツそうな見た目に反して、どこか抜けているところがあるのだ。いわゆるギャップというやつだ。 正直言えば、たまに可愛いと思う時があるが、それは愛玩動物に対するような感情だ。 ミナミは別に男が好きなわけではない。 ただワタリの生態に興味があるだけである。 本日のワタリは、朝のホームルームから一限にかけて微動だにしていなかった。ぱっと見は真面目に授業を受けているように見えるかもしれないが実際のところは、 「すぴぃ……んガッ…く……すぴぴ」 爆睡中である。独特な寝息は周囲の笑いを誘っていた。幸い、後ろの席なので先生には届いていない。 「すぴ、ん……すぴぃな……」 ミナミは思わず笑いそうになったがなんとか堪えた。さずがに今のはおかしいだろ、と周りと目で会話する。 ふと前を見ると、板書はあと少しで右端のスペースに到達しそうだった。 やばい、ワタリばっか見てた。消される前に早く写さないと。 ミナミは授業開始から二十分後、ようやくシャーペンを手に取ったのだった。
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