55人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
二人で学校を出て駅前のファストフードに入って、智彦のアイディアを聞くことになった。
「ミステリーみたいなのって面白そうだなって思うんだけど…」
窓際のカウンター席で隣に座った智彦がノートを広げる。
「密室劇っていうのかな、あまり場面転換なく、科白でつないでいくような」
「そうだね、活動部員の人数が春より減るから、あまり登場人物は多くない方がいいね」
あたしがアイスコーヒーを飲みながら答えると「そうなんだよね…」と智彦は指の背を唇にあてて考え込む。
わ、睫ながーい…
肌キレイ…ニキビとか全然ない。
あたしはストローを咥えたまま、智彦の女子みたいな肌理の細かい横顔に見入る。
智彦がふと顔を上げてあたしを見る。
あたしは顔が瞬時に赤くなってしまって、智彦の視線から自分を隠すようにアイスコーヒーの紙カップを目の前に咄嗟に差し出した。
「ん?…もらっていいの?」
と言って智彦はあたしの手からカップを取る。
「いや、あの違うの!」あたしは取り返そうとするけど、智彦は「遅い!」と笑って口をつけてしまった。
あたしが呆然と見ていると、智彦は「そんなに怒らないでよ。ポテト買ってあげるからさ?」と言って席を立つ。
ポテト…あたしは釈然としない思いを抱えたまま、智彦の書いたノートを読む。
智彦の神経質そうなきれいな文字がびっしり並んでいる。
登場人物の相関図もある。
あ…はあなるほどねえ…
つい引き込まれて読んでいると「どお?」と後ろから声がして、トレーを持った智彦が横に来て座る。
「うん…面白い」
あたしが言うと「良かった。杏にそう言ってもらえると安心する」と破顔する。
「ポテト…でかっ」あたしは智彦の持ってきたトレーの上を見て驚いて声を上げた。
Lサイズかな?
のほかにハンバーガーの包みもある。
「何か腹減ってきちゃって。杏も食べて」
と言いながら智彦はハンバーガーを手に取る。
「なんか…智彦って、最初会った時とずいぶん印象が変わったよね…」
あたしは遠慮なくポテトを口に運んで言った。
ハンバーガーにかぶりつきながら、智彦はあたしを見る。
「そう?どんなふうに?」
「入学式の時は、…なんていうか線が細くて、ちょっと頼りないっていうか…言っちゃ悪いけど女の子みたいな…」
あたしが言葉を考えながら話すと、智彦は咀嚼しながらうんうんと頷く。
「本当の智彦を知らなかっただけで、別に変わってないのかもしれないんだけど。
今はすごく頼りになって逞しいなって思う」
面と向かって男子を褒めたことなんて初めてで、なんだか恥ずかしくなってしまってあたしはうつむく。
最初のコメントを投稿しよう!