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計算ドリルを解いていた遼の手が止まった。
桑の川原とは、遼の通学路から少し外れたところにある、大きな桑の木が生えている川原である。この時期はアユがよく釣れる。
だから最近、部活がない日も帰りが遅かったのだ。
「あの赤いシミは桑の実だ。堤防の階段に座ったとき、誰かが落とした桑の実を尻で潰しちまったんだろ」
その形はラズベリーのように表面がつぶつぶだが、縦長。極小なぶどうというのが一番当てはまるかもしれないが、色は赤からだんだん黒になる。
黒い熟した桑の実は自然に木から落ちるが、赤い桑の実はまだ熟す途中である。しかし、この時期からご近所さんはあそこの桑の実を摘みに行き、ジャムを作る。だから「誰かが落とした」なのだ。
川釣りが好きだった遼に連れ添い、瞳もよく、桑の実を摘んで帰ってきていた。
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