6人が本棚に入れています
本棚に追加
あの日。
休日だったが、俺は出張で家を空けていた。遼と瞳はいつものように川釣りをしに、桑の川原へ行った。
いつも穏やかだった川は、前日に激しく降った雨のせいで増水し、流れは早かった。危ないからと瞳は遼を連れて帰ろうとしたが、翌日家に友達が遊びに来るから、アユを釣って見せたいんだと言って聞かなかったそうだ。
アユが竿を引っ張ったとき、遼は滑って川にさらわれた。瞳は咄嗟に遼を掴んだが、そのまま川に飲まれ、遼と繋がった腕と反対の手でかろうじて岩を掴んだ。
運良く近くを通りかかった年配の男性に、遼は助けられた。男性一人では一人ずつを引き上げるのが精一杯だったことに加え、瞳が遼を先にと懇願したのだ。しかし、力尽きた瞳は、遼が助けようとしたときにはいなかった。
「母ちゃんはいつも、お前のそばにいる。お前が信じてあげればな」
「でも、母ちゃんのこと考えてるの、やっぱり、加奈子ちゃんに悪いかなあ……せっかく、お母さんになってくれたのに」
最初のコメントを投稿しよう!